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男の人を、やんわりと引き剥がす。
「大丈夫ですよ。お部屋に戻りますか?」
「だいじょうぶじゃないよぉ……」
いやいやと首を横に振る男の人。
勾玉野郎の殺意を一身に受けて、安心できないのだろう。
私は男の人の手を引いて、勾玉野郎から距離をおく。
「おい、何処行く気だ」
しかし、勾玉野郎は気に食わないのか、私の空いている方の手を掴んだ。
私は勾玉野郎の目を見たまま答える。
「この人の部屋」
「何でだよ」
「部屋の方がゆっくりできるでしょ?」
「だからってお前がコイツの部屋に行かなくてもいいだろ」
「この人を部屋に連れて行くだけで、私がこの人と部屋で過ごす訳じゃねぇよ」
何でここ最近知り合った名前も知らん男の部屋で、時間を共有しなきゃいけねぇんだよ。
「そんな地獄みたいなことがあってたまるか。おい、お前の部屋は?」
ぶっきら棒に、勾玉野郎は男の人に訊ねた。
男の人は一瞬体を強張らせた後、しどろもどろに「あっちの部屋」と答えて、部屋の方を指さした。
「でも、あのっ、僕、お金持ってないから。泊れないよ?」
「ここは藤の花の家紋の家っていって、鬼殺隊に無償で尽くしてくれる家何だから甘えとけ」
「え?そんなっ……こ、怖くないの?タダより怖いものなんて無いんだよ?」
ああ言えばこう言う男の人を見て、勾玉野郎は面倒臭そうに顔を顰めた。
「大丈夫ですよ。後でお金を請求される事も無いので」
私が前、別の藤の花の家紋の家でお世話になった時なんか、隠の人が連れて来たただの一般人だったのに、お金を請求されたなんて事は無かった。
むしろ同情されて、いろいろしてくれたし。
「……そう、なんだ」
男の人は落ち着いたのか、小さく呟いた。
勾玉野郎は「Aの言う事なら素直に聞くのかよ」と不機嫌である。
「部屋に戻るのはいいけど、お前先に風呂に入れよ。汚ねぇから」
「汚い?!ご、ごめんなさい!」
私の手を離し、男の人は私達から離れる。
マイナスに言われた事を、過剰に反応してしまう様だ。
勾玉野郎は面倒臭くなったのか、私の手を引っ張って自分に用意された部屋へと戻った。
その後、すぐに夕食ができたらしく、隠の人が知らせに来た。
「夕食のお時間ですよ〜ってお嬢さん、何でこっちの部屋にいるですか?!」
「コイツに聞いてください」
隣に居る勾玉野郎を指さすと、勾玉野郎が私の指を軽く叩いた。
指さして済みません。
でも、何も言わずに叩くのはやめて。
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作者名:そうや | 作成日時:2020年8月14日 10時