瞳には何が映る ページ38
【福沢目線】
私は今回の経緯を事細かに彼女に話した。
組合の残党の企みを防ぐ為に利用された夢野久作の回収に当たる事。
これについてはこの街の均衡への貢献行為であって企み事では無いので其方の協力を要請したいとのことで、
其れにあたって太宰治の派遣をマフィアが所望した事。
マフィアが太宰に害を加えない様に太宰が無事、探偵社に返還されるまでの間、身代わりとしてAを預かる事を条件として提示した所、マフィア側が其れを受諾したと。
其の間も彼女は虚ろな目で、「そうですか。」と相槌を打つだけだった。
「……ざっくばらんに此の通りだが…其方から何か質問はあるか?」
A「………森首領…いえ、森さんは……其の条件を確かに…受諾…したのですか……?」
ゆっくりと一語一語、言葉を選ぶ様に其の口を開いた。
「然り…、信じ難い事実かもしれないが。」
A「………そう…ですか。」
彼女はまた哀しげな顔をして膝の上の自らの掌を見つめた。
「私も初めはこの様な条件を呑むといった彼の人を疑った。何か他の真理が有るのではと。」
「貴方は仮にもマフィア重役の身。そんな方を身代わり人として此方が指名して易々と引渡されるとは正直思っていなかった。」
これ以上は言うまいと思ったのだが、彼女の今後を考えて全て話す事にした。
「しかし現に之が結果だ。となると、彼の人は貴方を“易々と身代わり人として利用した“ということになりますな。」
此の幼子には重すぎたか。私は彼女を垣間見た。
彼女はじっと下唇を噛んで俯いていた。
其の様子を見て私が慰めの言葉を考え始めた時だった。
彼女が一つ大きな溜息をついてから顔をあげた。
そうして其の顔は先程の湿気っぽさを感じさせない程に穏やかだった。
A「利用される事なんて…私にとっては日常茶飯事ですよ。」
此処で訂正を入れたいと思う。
前述、私は[彼女の瞳は生きる意味さえ見い出せぬ様な瞳だと言った。]
然し今は違った。
其の瞳には、はっきりと自らの意思が宿っていた。
仮に其れが一時的なものだったとしても、其の瞳は完全に影に落ちた者の瞳ではなかった。
「利用される事が日常茶飯事か…。貴社の扱いも酷いものだな。」
A「いいえ。其れが妥当なんです。私は拾われた身ですから。常人の扱いなどハナから望んでいません。」
そう言い切った彼女の顔は何処か晴々と吹っ切れた様子だった。
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葵(プロフ) - 飽き性さん» ご丁寧なご指摘ありがとうございます(/Д`;応援ありがとうございます(^^♪頑張ります! (2018年8月1日 13時) (レス) id: 85af478746 (このIDを非表示/違反報告)
飽き性(プロフ) - 本編の方で福沢が福澤になってますよ。この小説大好きです!通知来る度うきうきしてます!無理せずこれからも更新頑張って下さい! (2018年7月31日 2時) (レス) id: 7dd1ea514d (このIDを非表示/違反報告)
葵(プロフ) - 雪奏さん» お気に召して頂けた様で大変嬉しく思います(^^♪どうか最後までお付き合い下さい(^ ^) (2018年7月25日 19時) (レス) id: 85af478746 (このIDを非表示/違反報告)
雪奏 - すごく面白いです!応援してます!壁|ョ・ω・`o)ガンバッテッ♪ (2018年7月22日 22時) (レス) id: edf769ece4 (このIDを非表示/違反報告)
葵(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 応援のコメント大変嬉しく思います!最近仕事の方が激務を増して今して忙しいので更新が滞っていますがどうか最後まで読んで頂ければと思っております(^ ^) (2018年6月18日 23時) (レス) id: 85af478746 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎそーまっち | 作成日時:2018年6月9日 18時