また会えたら、そのときは (ページ7)

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『お邪魔しまーす。おばちゃん、これ少ないけど皆で食べて』
「ありがとう、夕飯食べてく？」
『ううん、すぐ帰るから』

お母さんと違ってジェヒョンのママは私が部屋に行くことを何も言わないから、ドーナツだけ渡してジェヒョンに引っ張られながら階段をのぼる。鼻歌を歌いながら自分達の分をお皿に移して持ってきたジェヒョンはパッと見平気そうに見えるけれど、口端を噛んでなんとか泣くのを堪えているようだった。

『ジェヒョン離れて』
「いやだ」

部屋に着くなりお皿から手を離したジェヒョンは、落ちていくドーナツに見向きもせず私の体に腕を回す。ラグが敷いてあってよかったなんて呑気にそんなことを思っていたら、首元が冷たくなっていくのを感じ、数秒後には鼻を啜る音が耳に入ってきた。…あの出来事はジェヒョンの心にトラウマとして残っているんだ。こんな言い方はしたくないけれど、被害者である私よりもジェヒョンの方が悲しんでいるのは変な感じだけれど、私はそれだけ大切にされてるんだって、おかしな方向に考えてしまう。

『今日はごめんね』
「…ん」
『ドーナツ食べよう』
「落ちたやつだけど」
『落とした本人が文句言わないの』

目を真っ赤にしたジェヒョンが眉を垂らしてゆっくりと口角をあげる。いつものジェヒョンに戻りつつあることを確認してからそっと距離をとった。幼馴染みは友達よりも近いところにいるけれど家族とはまた違った形で、その定義は曖昧だ。だからこそ何でも話せる仲でもあるし、いてくれて心強い存在ではある。でも、だから、その距離感を間違えないようにすることはとても大切なことで。

「このドーナツAみたい」
『どの辺が？』
「ぎっしりしてるところ」
『デブって言いたいの？』
「被害妄想で怒らないでくれる？」
『……帰ろ』
「嘘だよ」

粉砂糖が口の周りに付いてることを教えると「取って」と昔から変わらないニコニコというか頬をモチモチさせた表情で顔を寄せてきたから、ティッシュを1枚取って拭いてやった。

「それ安いやつだから擦ると痛い」
『知らないよ、ならいいやつ置いて』
「そしたらA食べるじゃん」
『食べないよ』
「甘いって言って食べてた」
『いつの話をしてんの、それあんたもやってたから』

テレビでやっていたどうでも知識を検証したのは、もう10年近く前の話だ。それだけ長く一緒にいると離れるのが怖くなってしまう。そう思ってるのはきっと私だけじゃないだろう。