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空気を和やかにするように、心地の良い低い声で色々と話してくれた叶さん。
私の身体はとうの昔に限界を超えていたらしく、その代償として倒れてしまったらしい。雨に打たれたのもあってか、運び込まれた時は39度以上の熱にうなされており、極度の睡眠不足の反動で丸一日寝てしまっていたらしい。
その間の着替えや汗の拭き取り等は叶さんが呼んだ女性看護師にやってもらったので、プライバシーは私が寝ている間にも色々と守ってくれていた。
体温計を脇に差し込み、数分待つとピピッと軽快な電子音が鳴る。叶さんが体温計を取り、体温を見れば「37.8かぁ。解熱剤飲もうか。楽になると」と言って、薬と水を渡してくれる。
どうやら即効性らしく、全身のだるさや頭痛がほんの少しだけ引いていく。叶さんに支えられながら、ゆっくりと上半身を起こせば、丸一日寝ていた身体の節々が悲鳴を上げていた。
「あ、カフェ…MASKの誰かに…連絡しないと」
「あぁ、僕から連絡しといたよ。皆、凄くAさんを心配してた。特にあの3人はね、倒れたって聞いた途端に泣きそうな顔してたし…だから、体調が回復したら連絡してあげて？」
「何からなにまで…本当にありがとうございます。叶さん、凄く助かりました…あの、私のスマホはどこに」
「体調回復してないので今は没収です。スマホあったら、また無理するでしょ？もう大丈夫だって送りそうだったから…うん、そう思った僕の判断です。起きた事は僕から伝えるけどAさんからはまだ駄目。勿論悪用とかしないし、状態としては充電が無いだけだから」
叶さんの手中にあるのは私のスマホだった。
横の音量調整ボタンを押しても依然として真っ黒な画面。
どうやら本当に充電が無いらしく、叶さんが指で液晶画面をタップしても何も返答もない。安心するようにスマホを見せると叶さんは再び、自身のポケットに私のスマホを入れた。
「これは僕の推測なんだけど…きっと、きなこさんたちはAさんの『大丈夫』を信頼してたと思う。でもそれ以上に心配を凄くしてた。だから、Aさんの大丈夫を引き出してしまう心配の言葉を何度もかけたと思う。あ、それが悪いって言ってるんじゃないよ？身近な人の心配をするのは当たり前だもの…でも、その大丈夫はずっと大丈夫じゃなかった。大丈夫じゃないのに、大丈夫って言うなんて…そんなの、どんどん心がすり減っていくに決まってる」
この人は、本当に凄い。
医者としての目が本物過ぎて、怖いほどに。
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作者名：こりん
| 作成日時：2024年3月30日 0時
