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自身が先程まで纏っていたコートで冷えきった小さな身体を包む。既に意識が無い状態のAを丁重に姫抱きすると、路上に停めていた自車の後部座席に寝かせる。
兎の被り物を取れば、雨に濡れて無いのに顔の皮膚は大量の汗が流れていた。ぐっしょりと濡れた髪が肌に張り付いており、掻き分けて頬に手を添えれば、熱すぎる体温が指先から伝わる。
雨で濡れた洋服では、身体の熱を奪ってしまう。
仕方ないと割り切り、出来るだけ身体を見ないように視線を逸らして、服を脱がす。タオルで水気を拭き取ると自身の替えの洋服に着替えさせた。
男性と女性では体型が違うので、かなりぶかぶかである。スボンを履かせたいが所持していたズボンのサイズが合わず履かせようにも履かせられない。ずり落ちるだけだろう。
仕方なく、上着1枚にして部屋着のワンピースのようにする。下が見えないように毛布をスカートのようにして巻き付けると自身のコートをまた小さな体に掛けた。
まだ症状は分からないが高熱を発症している。持っていた解熱剤を舌に乗せ、ペットボトルの水を流し込む。ごほっと咳き込むも解熱剤は喉に流し込まれた。
少しだけ、苦しさが抜けた事にホッと胸を撫で下ろす。運転席に移動する合間にも、ポケットに突っ込んでいたスマホを取り出し、よく電話する相手という項目の1番上に表示された名前をタップする。
「急患出た」
数度、会話を交わす。相手が了承してくれたのでスマホを切り、助手席に投げるとすぐにアクセルを踏んで、路肩に溜まっていた水溜まりをタイヤで踏み付ける。
十数分、車を走らせる。高級住宅街に並ぶ家に引けを取らないシンプルながら豪壮な家は個人医院の役割も持っていた。
ガレージに車を停めると後部座席で眠りにつくAを起こさないようにゆっくりと抱える。開業医のプライベートな空間へ繋がる扉を足で開き、できるだけ靴を並べて邸宅へ上がった。
外とは違い、温かい空気が2人を出迎える。
べちょ、べちょと丁寧に磨かれたフローリングを汚しながら奥の部屋へ進んでいく。スライド式の扉をまた足で開ければ、既に準備が整った部屋が待ち受けていた。
清潔感のある白いベッドにAを寝かせれば、閉じかけのスライド式の扉が誰かの手によって、再び開く。
「急にごめん。叶」
「いいよ。お風呂入ってきたら？」
「そーする」
叶は風呂場へと向かう彼の背を見送ると次にAを見つめる。
「ほーんと…彼女にはとことん甘いね、葛葉は」
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作者名：こりん
| 作成日時：2024年3月30日 0時
