▽ 迷子のNPCが辿り着く場所 ページ2
「うん、やっぱキッチンは無くそう。こっちには必要なさそうだし」
「その方向で…Aちゃんってあとどれ位で帰ってきそう？」
「さっき、ボドカさんがAさん借りたわって言ってたからそろそろかも。じゃあ、今日はここら辺で。くれぐれもこの事は内密にね」
裏口からキッチンは直通になっており、暖簾を潜れば店内ホールになる。なので、ホールが静かであればキッチンまで話し声は聞こえてくる。
「………え？」
思考が完全に止まり、中身が詰まった紙袋が破れそうな程強く締めてしまう。緩慢になっていく視界の中で、脳を駆け巡る衝撃は雷鳴のように響いた。
キッチンを無くすって…どういうこと？
キッチンが無くなってしまえば私は…キッチン担当として雇われた身だ。キッチンが無くなれば、私の居る意味が無くなってしまう。
必要が、無くなってしまう。要らない存在になってしまう。
あの時隠した紙が。何かを隠している理由が。
最近、配達を任されるようになった理由が。
ずっと、心の拠り所だった場所が無くなってしまう事だったなら。
『貴方に居場所なんてあるの？』
私は、あの夢のように___________？
腕の力が抜け、支えを失った紙袋は重力の糸に引かれて落ちていく。食材が落ちたとしても、今は気が回らない。卵の殻がひび割れるも今は滲む視界の中では目にも入らない。
子供の駄々のように嫌だという凄まじい拒否反応に襲われるも恩義を感じる相手を困らせる事だけはしたくない。
「何の音？」
きなこさんの声が近くなり、キッチン方面へ来ている事に気付く。
今の話を聴かなかった事にしよう。きなこさんが私に内密にと言っているのだから、知らないフリをするのが1番だ。
被り物をしているお陰で、酷くなった顔を晒す事はない。
悲しい時も1人で乗り越えられる。私は大人なんだから。
大人なんだから、誤魔化すのだって上手くなきゃいけない。
「すみません。段差に躓いて落としてしまって」
「Aさん！？お、おかえり！？大丈夫、怪我とかしてない？」
「はい、大丈夫です。すみません、すぐに拾います」
「いいよいいよ。俺が拾うから………？体調悪い…？なんか、声が…」
「大丈夫です。さっき、ボドカさんが話してくれた映画の内容が感動的で…つい泣いちゃいました」
「そ、う…？」
ぐらりぐらりと揺れる視界。ぼぅっと霧がかる思考。
ずきっと脳を締め付ける痛みは全て無視した。
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作者名：こりん
| 作成日時：2024年3月30日 0時
