Lv5 御客様、札束で殴るのはおやめください ページ1
北署駐車場に停めていた社用バイクに跨り、アクセルを蒸す。すると、外まで見送りに来てくれたボドカさんとヘンディーさんが北署入口で手を振っており、返すようにお辞儀をしてその場を後にした。
『のあさん、一旦病院に帰るよ？皆、酔ったのあさん心配してるみたい』
『んー？帰る…』
『中に戻ろうか』
『おう。めんどくせーけど、パトロールにも後で行くかァ』
『取り締まりも次いでに行こうや』
皆それぞれに、帰る居場所がある。
帰る場所は認知せずとも、自然とその場所へ帰っていくのだろうか。そして、待っているのだろうか。
直近で見た夢をふと思い出し、和やかだった心に灰色の分厚い雲が掛かり始める。うっすらと思い出したのは、きなこさんたちが咄嗟に隠したあの紙。
普段なら些細なことなんて気にしないはずなのに、露骨に隠され誤魔化された事で気になってしまう。
でも、聞ける勇気も無くて、また誤魔化されそうで…聞けなかった。
『貴方に居場所なんてあるの？』
カフェMASKが居場所で、帰る場所であって欲しい。
そう思うのは傲慢なのだろうか。
これはNPCみたいな存在が抱いてもいい願望なのだろうか。
ゴミ箱に廃棄される丸め込まれた紙のように、存在ごと捨てられたあの夢のように、行き場が無くて途方に暮れていた私を拾ってくれたきなこさんたちに『いらない』と言われたら…駄目だ、気になる事を悪い考えと繋げてはいけない。
曲がりなりにも、きなこさん達を見てきた。余程な理由がない限り、急に人を切るなんて事はしないはずだ。
「…考えるのやめよう」
悪循環を繰り返す思考を打ち止め、北署での事を思い出す。
お茶が美味しかったので今度、ボドカさんに会った時に何処のお茶か訪ねてみようかなぁなんて思いながら、バイクで沿岸沿いを進む。
潮風が気持ちよく、水面で燦燦と輝く。天空海闊とはこのことだろう。ドカンと遠海で聴こえた爆発音さえなければ、落ち着けるのだろうが…聴こえるからこそ、ロスサントス。
爆発音とサイレンが鳴り響き続けるのが、ロスサントスの良いところなのかもしれないと最近思い始めた。
治安の悪さに対して何とも思わなくなる日も来るのだろうか、と順調に毒されながら、スーパーで足りない調味料を購入してからカフェMASKへ。
駐車場にバイクを停め、調味料や食材が入った紙袋を手に持ちながら、裏口からこっそり入った。
「それじゃあ、キッチンは完全に無くす方向で」
ドクン、心臓が嫌な音を出して跳ねた。
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作者名：こりん
| 作成日時：2024年3月30日 0時
