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自然とローレンの口許は緩んでいた。好きという単純で複雑な感情が胸の中に落とされていく感覚があまりにも気持ちが良かったから。
水に溶けていく砂糖のような甘ったるい気持ちに脳が浸されていく。手から伝わる微熱が自分の皮膚に移されるだけで、触れただけでこんなにも身体は喜びに満ち溢れている。
好きという感情から生まれてくる錠剤は馬鹿みたいにローレンを元気にさせてくれる。
「俺、Aサンが欲しかったんです。分かってくれました?」
Aを想うからこそ生まれる受難は多い。
だが、Aがいるからこそ、生まれる幸福は計り知れないほどに大きいのだ。彼女が存在してくれるだけで、今の自分は生きていられる糧を得る。
だから、今もこんなに生を感じられる沢山の感情を元に、とびきりの笑顔を貴方へ向けられるのだ。
「ハッ……イ。しか、と……受け取らせ…て頂き…ました…」
「分かってくれて嬉しいです…ん?」
ローレンのとびきりの笑顔を直に喰らい何処か様子が可笑しいA。いつものような照れとはまた何か違う…いや、照れの重症とも言えるようなぎこちない動きに首を傾げるローレン。
普段ならば絶対に触れない兎の被り物の耳へ自然と手が伸びていた。
土に埋まる人参を収穫するように兎の被り物をすぽんと上へ引き抜けば___________中に秘められていたのはりんご飴のように熟されたように紅く、光に反射する蜜の硝子のような輝いた顔だった。
ローレンにとって、パンドラの箱でも開けてしまったような衝撃だった。Aが微笑んだ事は、兎の被り物越しでも分かる。照れている時は、テンパって挙動が少しおかしくなる傾向があるので分かりやすかった。
「あっ!?だ、駄目ですっ…!?う、兎の被り物を取っては…!」
けれど、これは知らなかった。
兎の被り物の下で、こんなにも顔を真っ赤にしていたなんて。
「かッッ…わい……」
たった3つの音に含まれた感情は、それ以上のもの。
唯一出せた声が彼女の鼓膜を震わせ、更に顔の色度が上がった。耳まで、燃えるように赤い。
Aの機敏な行動ですぐにパンドラの箱は閉じられようとするが、唖然とする事実を黙認しているローレンの力の方が上回り、中々兎の被り物が顔を覆わない。
諦めたかのように、Aは自分の手で顔を覆うと恥ずかしそうに俯く。
「ず、るい…です…!返してください…!」
それは、こちらの台詞だ。
これはあまりにも、不意打ち過ぎた。
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堅香子(プロフ) - 文才とてぇてぇが溢れてていっぱいすき (5月3日 19時) (レス) @page22 id: 3ee8fa3e36 (このIDを非表示/違反報告)
ひかり(プロフ) - 表現が丁寧で想像もしやすくてドキドキしながら読みました。更新楽しみにしています。 (3月21日 17時) (レス) @page15 id: 066d5681b9 (このIDを非表示/違反報告)
しずく - 本編も大好きです。番外編も本編とはまたちがった面白さが見られそうで、これから誰が登場するのか、どのような物語を紡いでいくのかとても楽しみです! (3月9日 0時) (レス) id: 688b0f975d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こりん | 作成日時:2024年3月9日 0時