▼ ページ35
その後も他愛の無い会話を繰り返し、だるまがなるせによって回収されるまではのんびりとした時間が続いた。
またな！と手を軽く振って、現場へと向かっていくだるまを見送る月島は再び、ガレージ内へ戻る。ガレージ内に留まる少し焼け焦げた臭いに苦笑しつつも、作業を開始した。
「それ、誰の依頼ですかぁ？」
「葛葉さんの。俺のとこで卸したついでに改造頼まれて」
銀色の糸のような繊細で綺麗な髪を揺らし、アクアマリンの輝きに満ちた円な瞳を持った少女:アルスが尋ねてくる。
葛葉という名を聞くなり、「そういえばさっきも出張修理頼まれたんですよ」とキャッチボールを返す。その顔は頼られて嬉しいという喜びで満ちており、手に持ったスパナを今にも振り回しそうである。
だが、そんな野蛮な事は臨界点が突破しないとやらないということを月島は知っており、「葛葉さん、意外とドジっ子な所ありますもんね」とまた、会話のボールを投げた。
「でも、最近…葛葉さん、元気ないように見えるんだよね。分からないんだけど…顔が暗いというか、思い詰めているような気がして。声を掛けたんだけど、はぐらかされちゃった」
「…いつか、アルスさんにも話してくれますよ」
「そうだと、嬉しいなぁ…なんて。あ、電話だ。ちょっと行ってきます！」
兎のように飛び跳ねて、電話に出るアルス。その背中を見送ると最終チェック項目にチェックを入れ、依頼主である葛葉へ依頼完了の旨を伝える電話を掛けた。
10分後、葛葉はお肉の組の構成員であるうるかのヘリに搭乗して、ガレージへとやってきた。
「月島さん、ありがとう！まじ助かる！」
「こちらこそ。俺を選んでくれてありがとう」
無邪気な子供のように、カスタムされた車を眺める葛葉。
ひと仕事終えた彼にとって喜ばれる姿を目にした時は嬉しいもの。一日の疲れなんて軽く吹っ飛んだ。
「葛葉さん」
「んー？」
「…Aさんとは、お話しましたか？」
他の質問なら、即答するだろう。頭の回転が早く、ずる賢さまで持ち合わせている彼なら、たった1つに関わる質問を除けば即答出来た筈だ。
だが、葛葉は露骨に口をつむんだ。肩をビクッと震わせ、歓喜の声は枯れる。そんな彼の様子に、月島は心配な眼差しを向けていた。
「俺が言うのもあれだけど…きっと、後悔すると思う」
「…月島さん」
名を呼ばれ、俯いた顔を上げる。
「ッ…！」
名を呼んだ彼の紅瞳は、酷く暗澹とした翳りを宿していた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2691人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夢打刻 - 🐹さんが出てくる話少ないので嬉しいです…！！ (3月24日 9時) (
レス) id: 15c763c3c7 (このIDを非表示/違反報告)
ひかり(プロフ) - 今日初めて見て追いついてしまいました。kzhがめちゃくちゃかっこよくてどうなるのか幸せになってほしいと願いながらまた楽しみにしてます。 (3月21日 22時) (レス) @page41 id: 066d5681b9 (このIDを非表示/違反報告)
シノ(プロフ) - もう最高です更新毎回楽しみにしております…！！kzhがちょこちょこ出てくるものの詳細が出てないの気になりすぎて夜しか眠れません…大好きです…更新疲れるかもしれませんが…頑張ってくださいずっと応援しております！！！！ (3月9日 23時) (レス) @page29 id: c35a40f298 (このIDを非表示/違反報告)
しずく - すてきなお話で、いつも更新を楽しみにしています。ちょこちょこ登場しているkzhが気になります！これからもだれか参戦するのかな？どんなお話になるのかなと楽しみにしています。 (3月9日 1時) (レス) @page29 id: 688b0f975d (このIDを非表示/違反報告)
なな(プロフ) - 実はもんど署長の参戦、もしくは絡み期待しちゃってるのですがご予定ありますか...？いつも楽しく読ませていただいてます！ (3月9日 0時) (レス) id: 412825c0ad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こりん
| 作成日時：2024年2月18日 17時
