プロローグ ページ1
とある大陸のすみ。
東西に海が見えるその土地に、高華国はあった。
未だ建国されたばかりの小さな国。
王城の、とある一角。見張り台で国を見晴らしながら、歳若い王とその兄はこれからを考える。
「なぁ、緋龍」
緋「なんでしょう、兄上」
「俺は心配だ。この国が」
兄は空を見上げ、そう、言葉を紡ぐ。
王は、兄が心配する事が、自らのそれとは違うような気がしてなんと言えば良いか分からぬという顔で兄を見る。
「今は、この国はできたばかりで乱れている。…まぁ、それは致し方ない。“四龍の戦士”たちがいれば、なんとか鎮まろう」
王はその言葉にますます首を捻る。
緋「ならば、一体なにが心配なのですか？」
王が訊くと、兄は空を見たまま、応える。
「未来だ。緋龍、未来だ」
そこで言葉を切ると、不意に歩き出し、見張り台の隅から城下の人々を見下ろす。
「これからの未来、なにが起こるか分からないし、俺たちは不死身じゃない。王の代替わりには目をつけた豪族や隣国が、世代の進行により腐った貴族が、武力を持って国を蹂躙し、民を傷つけるだろう。時に、飢餓や疫病、災害が人々を襲うだろう」
「それが起こった時、この身がここにないと思うと不安でしょうがないんだ」
そんな兄の思いを聞き、王は暫く思案すると、兄に言葉を返す。
緋「…ならば兄上。どうしようもなく国が傾く時、私の魂は転生し、民を護り、国を守りましょう」
それを訊くと兄は驚いたように目を見開き王を見つめ、ふわりと笑った。
「そうか…有り難う、緋龍。安心した。ならば俺はお前が再び産まれる時、お前の兄として産まれお前を守ろう。……それが、“灰”の龍である俺の宿命だから」
今より二千年の昔のことである。
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