【忍たま】諸行無常の響きあり (ページ8)

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「失礼します。」

そう言い襖を開くと、保健委員会の委員長である善法寺伊作がAに寄り添い、額の布を変えている所だった。伊作はこちらに気がつくと人の良さそうな笑顔で客人を歓迎する。

「やぁ鉢屋、お見舞いかな？」

「…まぁ、そんな所です。……Aの容態はどうですか？」

伊作が静かに首を振る。

「……そうですか。近くに寄っても？」

「大丈夫だよ。今日あった出来事とか、話しかけてあげてね。そっちの方が意識が戻りやすいと思うから。」

「わかりました。」

そっと近寄ると、まるで死人のように顔色が悪く、薬の独特の匂いが鼻を抜けていく。

こうやって見ると、少し顔色が悪いだけの、ただの寝顔であるのに。いつもと変わらない、いつものAだ。

頬に傷跡があるのを見つけ、そっと優しく撫でてやる。

(女のくせに、顔に傷なんかつけて。……だから言ったんだ。早く、辞めてしまえば良いと。)

『なんで言い返さないんだよ、三郎！お前は凄いんだから、堂々としていれば良いんだ！馬鹿にしてくる奴なんか私が追い払ってやる！』

『三郎、凄いじゃないか！やっぱりお前の変装は凄いな！』

『お前が何者であろうと、三郎は三郎だ。五年間共に過ごしてきたのは、他の誰でもないお前だ、三郎。』

脳裏に蘇る様々なAに、思わず顔を歪める。

(クソ……。……だから…情が移ってしまう前に、早く辞めてしまえば良かったのだ……。)

体温の感じない冷たい手を強く握りしめる。いつもなら、手を握るなんてらしくない、と笑い飛ばすくせに。仕方ないとため息を吐いて、なんだかんだ愚痴に付き合ってくれるくせに。

なにも反応がないことが、静かに寝ている顔を見ることが、こんなに辛いなんて。

冷たい雫が顔の下へと零れ落ちたような気がしたが、三郎がそれを拭うことはなかった。ただ、その瞳は何かを覚悟したように、じっと握った手を見つめていた。