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そして。
気づけばみんなでご馳走を食べ尽くしていて。
作間くんがゆるやかなピアノの曲を弾き始めて、空気がまったりし始めて。
私は気分転換半分、それと純粋に礼儀として、
キッチンに汚れたお皿を運ぶ涼くんの背中を追って、
後片付けを申し出た。
『涼くん、すごく美味しかった。ありがとう、私片付けるよ』
「え、Aちゃんはゲストなんだから座ってて?それに洗うのは食洗機がやるよ?知ってるでしょ?」
『でも!やらせて!このエプロン借りるね!』
黙って座っているとまたドキドキがぶり返して何だかおかしくなりそうだったから、敢えて手伝いを始めた。置いてあったエプロンを借りて。
勝手にぽーっとするこころとからだも、
冷たい水を扱えばすこしでも冷めるかな。
気が紛れるかな。
そう思ったから。
____
…そんな流れ。
涼くんはいつもこうだ。
優しい笑顔で私にちょっかいを出してくる。
「…ほんとに可愛い」
生徒会室に続く設備の整ったキッチン…と言うよりむしろ業務用の本格的な厨房みたいなこの部屋で、ふたりきり。
「やっぱり髪結んでんの似合う…これ。耳とうなじががっつり出てるのがすげーいい」
涼くんはこれ幸いとばかりに手の離せない私の後ろから攻撃を仕掛けてくる。
無理。
無理が過ぎてます。
今日一日で涼くんの花のような色香のオーラを過剰摂取しすぎてる。これは絶対だめなやつ。
恥ずかしすぎるしおかしくなりそう。きっと臨界点の突破は近い、私。
『…涼くん、絶対絶対私のことからかって楽しんでるでしょ』
「へ?そんなつもりないよ」
『嘘!絶対絶対面白がってる!』
向き直って問い詰めると、すぐにへらっとした笑顔になる。
その微笑みは抗いがたい魅力。
涼くんと視線を合わせるだけで、
また花が香るように、甘いときめきを粉にしたかのように、周りに漂う何かが美しく匂やかに語りかけてくる。
…この色香は、罪だ。やっぱり絶対だめなやつだ。
「あ、ばれた?だって可愛い女の子は構いたくなるんだよ。男ってそういうもんだよ?」
『「可愛い」って言葉、免罪符のつもり⁈そういうのはよくないよ涼くん!』
恥ずかし紛れにぷんすか怒る私に、涼くんはものすごく優しい目をして言った。
「俺、女の子好きなんだよね」
『…うん、知ってた』
「や、なんか違う方に解釈してない?」
『そんなことはないと思う』
ジト目の私に苦笑した涼くんは、言葉を続けた。
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作者名:冷麦 | 作成日時:2020年6月5日 20時