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『そうなんだ…そっか…』
涼くんがどこか透明な目で私を見ている。
まるで私が何を考えているのか注視してるかのように。
…気のせいかもしれないけれど。
ちくっとこころが痛むけれど、私は何でもないふりをしてへらっと笑い返す。
ばかみたい。
私は本当にばかみたいだ。
家を出るときは、今日会えるかもなんて全く思ってなかったのに。
4人を見て勝手に期待して、勝手に落ち込んでる。
…そう。5人なのかもって。
井上くんに会えるかもって期待した。
一瞬でいろんなことを考えて、どきどきした。
でもそんなことありえないんだ。
『…っ』
ありえない、のに。
一旦会えるかもって思ってしまったら、もう駄々っ子みたいに抑えが効かないなんて。
…まるで今までずっと会いたいってこころの奥で願ってたみたいに、こんなにも顔が見たいなんて。
そもそも私と井上くんの間には約束なんか何もない。
何も持ち合わせていない。
チョコを作っても渡せる機会なんかない。
学校も違うし連絡先だってまともに知らない。
お正月に会ったのもただの偶然でしかない。
それなのに、がんばって作ってしまった。
私が選んだラッピングを開いて、チョコを見て。驚いてくれるかなって想像してしまった。
嫌そうで嬉しそうなあの照れくさそうな顔を想像してしまった。
喜んでくれたら、って。願ってしまった。
胸が苦しいのに、せつないのに、甘くてあったかくて、痛い。
勝手にこころが騒いで、止んでくれない。
…どうしても今会いたい。
この気持ちに、嘘はつけない。
「多分まだ学校いるかも、瑞稀」
透明な目をしていた涼くんが優しく笑って、そう私に告げた。
その瞬間。
「Aちゃん?!」
『お試しご馳走さまでした!ごめんなさい、また今度ちゃんと飲みに来ます!』
高橋さんにチョコの香りの残るカップを返してぺこっとお辞儀をした私は、
走り出していた。
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『…っ、くるし…』
あの後。
超特急で帰宅して、買ったばかりのボックスに冷え固まった2ターン目のチョコをそっと入れて、きゅっと赤くてしなやかなリボンを結んで。
もう一度髪を結び直して、でもメイクをする時間まではないって判断して、
「お姉ちゃんどこ行くの?もしかして!」ってどこか嬉しそうな龍我の声を背中に聞き捨てて、また爆走して。走りまくって呼吸困難だけど。
…今、すぐそこに白い門が近づいてる。
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冷麦(プロフ) - みちゃこさん» みちゃこさん、コメントありがとうございます。好きと言ってくださって嬉しいです!感謝です! (2020年3月16日 15時) (レス) id: 5b6161b271 (このIDを非表示/違反報告)
みちゃこ(プロフ) - このお話大好きです。これからも更新頑張って下さい! (2020年3月16日 0時) (レス) id: b50848dd48 (このIDを非表示/違反報告)
冷麦(プロフ) - おかゆちゃんさん» おかゆちゃんさん、コメントありがとうございます!きゅんきゅんしてくださって、素敵な感想を寄せてくださって、本当に嬉しいです…!励みになります! (2020年2月23日 0時) (レス) id: 5b6161b271 (このIDを非表示/違反報告)
おかゆちゃん(プロフ) - こんなにきゅんきゅんするお話に出会えて感動してます( ; ; )登場人物全員かわいすぎる…!本当に評価が一度しか出来ないのが悔やまれます(>_<)これからも素敵なお話楽しみにしてます! (2020年2月23日 0時) (レス) id: a7174925fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冷麦 | 作成日時:2020年2月8日 17時