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「…それも、可愛いです」
慌てて目が泳いでしまった私のことを言っている。多分。
悔しい。年下の生徒にこんなふうに言われて。
でも。
私のことを好きなのは、本当なんじゃないかって思う。
これまでの性的な目線だけの生徒じゃないんじゃないかって。
さっき怒った七瀬くん。
どこまでも本気に取らない私に、純粋に怒った七瀬くんを思えば。
…その気持ちは本当なんじゃないかって思う。
好きですって。ずっと言いたかったって。
こんなに切なく言われて、もう私のこころは揺らされてしまっている。
七瀬くんの気持ちはもうわたしのなかに流れ込んでしまっている。
その切なくて熱い気持ちが。
そして、一途に気持ちをぶつけてくる七瀬くんのことを好ましく思う。
言葉を尽くして、伝わらないならこうして無理矢理に、
でもどこまでも好きだって柔らかな気持ちのままで。
どうしよう。
七瀬くんを可愛いと思ってしまっている。
七瀬くんにときめいてしまっている。
…そんな私がいる。
そうして目がばちっと合う。
綺麗な、どこか燃えるような目。
私のことが好き、それが分かる熱いまなざし。
…ぎゅっとなる。胸が。
いま目を合わせてはいけないのに。
この距離感で合わせてしまったらどうなるのかなんて、火を見るより明らかなのに。
…合ってしまって。
七瀬くんの左手が、私の顎にそっと触れる。
くっと上にあげられる。
だめだよ…七瀬くん。
『七瀬くん…ねえ、だめ』
「もう、なにも言わないでください。
…黙って奪われてください。
そうしたらきっと分かります。俺のこと」
さらっとすごいことを言われた。
甘い、からだを溶かしそうな言葉を。
「言い訳がほしいなら。
…誕生日プレゼント、でいいです」
そう言って。
私の顎をあげたままの左手のうちの親指が、
場所を確かめるように私の唇にそっと触れて、
また離れて。
ゆっくり近づいてくる、優しくまつげを伏せて目を閉じていった白すぎない白い顔が、
そこにあるいくつかの頰のほくろが。
私の視界の最後の景色だった。
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作者名:冷麦 | 作成日時:2019年9月20日 18時