6 ページ6
「…だから。もう生徒じゃないって言ってるのに」
顔を上げた七瀬くんは、苛立っていた。
初めて見る怒りの感情の現れたその顔。
澄んだ目には、どこかかなしそうな色もあった。
不謹慎だけれど。
私はぞくっとして、正直に言うとドキッともした。
…七瀬くんの気持ちをそこにはっきり感じたから。
生徒としか見ていなかった静かな彼に、
言葉だけじゃない、
抑えられた私への熱みたいなものを感じたから。
かなしそうな目を見て初めて、
私を本当に好きなんじゃないかって思わされたから。
そして苛立つ表情に、男の子なんだ、男なんだって思わされるような私への執着も感じたから。
…不謹慎だけれど。
七瀬くんの一挙手一投足に、私はこころを捉えられはじめている。
「売り言葉に買い言葉、なんて。
俺の気持ちはそんなもんじゃないのに」
七瀬くんはやっぱり怒っている。
七瀬くんの気持ちは思ったより深いのかもしれない。
欲望ありきの言動だって決めつけてかかったことを後悔する。
『七瀬くん、ごめ…』
「これだけ言っても分からないなら、やり方を変えます」
急に。七瀬くんが席を立った。
私も思わず席を立つ。
…これは、まずい。そういう予感がしたから。
そうして机を挟んで立って向かい合う。
七瀬くんは背が高い。小柄な私は完全に見上げる体勢で、生き物的に不利だ。
綺麗なちいさい顔が上から私に向いている。
隣について彼が問題を解いている間に時々ぼうっと見る、頰のほくろも上から私を向いている。
いつもは伏せられたまつげも上から私を見下ろしている。
ついいつもと違う角度の、その立体感のある端正な顔に見入ってしまった時、
長い節々した指が私を捕まえた。
.
168人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「HiHiJets」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:冷麦 | 作成日時:2019年9月20日 18時