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今日で塾を辞める男の子。
その子の名前は七瀬くん、七瀬誠くん。
若佐第一高校2年のサッカー部。
理系が得意。
背が高くて、細身で、綺麗な顔で。
さらさらの黒髪。すこしきつい目つき。
ひときわ目立つ容姿なのに、どこか清廉。
賑やかな女子生徒たちはこそこそ彼の噂をして、
大人しい子は後ろ姿をそっと目で追っている。
女の子みんなの関心の的。
たぶんすごくもてる子。
けれど綺麗すぎてどこか冷たい雰囲気を持つのと、
表情が硬いのと、
女子生徒とは全く話さないみたいで。
だから女の子たちは秘かに心を寄せている。
…みんな可愛い。高校生の青春だ。
もともと賢い彼は、保険的にうちの塾に通っていて。
サッカーに力を入れているって話だったし、そんなに長期にはならないだろうと思っていた。
私の受け持ちの少人数コース。
他の子たちが帰ってもゆっくりして、まるで私が後片付けを済ませるのを待っているようにしているのは、
今まで辞めていった子たちと同様に、
きっと最後にお別れと感謝の言葉でも言いたいんだろうと思っていた。
性格は冷静で、綺麗な顔も立ち姿も涼やかで。
私にも静かで、質問以外のことは話さない。
だから今日の別れもあっさりしたもの。
…だろう、と思っていた。
けれど。
「先生、好きです」
そう三白眼でじっと見つめられた。
質問があるからこっちに座ってください、って呼ばれて掛けた、生徒用の七瀬くんの席の向かい側で。
最後の質問に答えて、テキストを閉じ終わるより前に。
その低い声が、ほかには誰もいない、白い壁の教室に唐突に響いた。
『…え?何が?』
「だから、A先生のことが」
そう平然と、こんな簡単なこと分からないはずないですよね、みたいに言う七瀬くん。
薄いくちびるで、白い肌で、すこし流したさらさらの黒髪で、私を見つめながら。
…なにごと。
一瞬面食らったけれど、思い当たる。
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作者名:冷麦 | 作成日時:2019年9月20日 18時