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「…俺。Aさんのことが、」
ばっと後ろを振り向く。
私のこと…?
何だろう。
何を言いたいんだろう。
半分振り向いた私の右肩越しに、作ちゃんと目が合う。
真面目な顔。
それから、黒いアップルウォッチが付けられた右手が見える。
足を踏み出している作ちゃんが、その右手で、私の右手首を掴んでいる。
作ちゃんの細いけれど男らしい、普段から血管が目立つ腕。
その血管がいつもより更に、くっと目立って見えて、つまりいつもより力がこもっていることを知らせる。
強く、私の手首を引いている。
…
待って。
自分の波立った感情に流されて、全く意識していなかったけれど。
私。作ちゃんに…
え??????
作ちゃんに手首を掴まれている。
触覚ではなく、視覚としてのその情報。
見てしまって。
それで私は一気にからだが熱くなった。
一気に燃えた。
恥ずかしい。
なんで?
なに?
恥ずかしい。
掴まれた自分の手が、自分の頰が、こころが熱い。
まるで瞬間湯沸かし器みたいに。
発熱と熱伝導、熱放射。
冷静に状況が判断できない。
とにかくこれはなに?恥ずかしい。
そういう思いしか出てこない。
作ちゃんはずっと私の目を見ている。
いつかの、なにか言いたげなまなざしと同じ。
…そして、ちらっと私の頬を見た。
「…っ」
見た、と認識できた、その後すぐに。
分かりやすく、目が上に行ったり横に行ったり、泳いで。
その後、作ちゃんの頬も真っ赤になった。
それで知る。
作ちゃんも私と同じだ。
至近距離で、手首を掴まれたままで、分かってしまった。
…なぜか作ちゃんもいま、私と同じで、恥ずかしがっている。
そう思ったら。
「…」
『…』
こんな時に限って、路地は誰も近くを歩いていない。
何も言えなくて、ふたりだけ。
折角の雨上がりなのに建物で夕焼けもよく見えない、駅から2分の裏通り。
心臓がつらい。
ばくばくでドキドキだ。
お願い。なんとかして。
さっきまで何か言いたいんじゃなかったの。
それからなんで照れてるの。
というか、この手。この手がだめ。
その時、ぼんやりと視界に入っている作ちゃんの薄青の紫陽花のその向こう。
電気店との間の、私たちの立ちつくす裏通り。
向こうの駅側から、黄色の何かが転がってきた。
「…Aちゃん」
黄色の転がってきた先には、那須さんが立っていた。
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冷麦(プロフ) - こうちゃさん» アッアーーーーーありがとうございます、嬉しい言葉ばかりで泣いています。 私もにやけて書いていた笑ので、同じ気持ちになってくださったこと、嬉しいです。車内ではご迷惑をお掛けして申し訳ありません笑引き続き読んでくださると嬉しいです! (2019年8月3日 11時) (レス) id: 5b6161b271 (このIDを非表示/違反報告)
こうちゃ(プロフ) - わーーーーー!作ちゃんが可愛すぎて!がりさんと同じところで可愛いなおい、ってにやけてしまいました!しかも電車です!不審者不可避!でも最高です!ありがとうございます!!描写や冷麦さんが書く言葉が美しくてとっても好きです。これからも更新楽しみにしています (2019年8月3日 10時) (レス) id: 066b7f100e (このIDを非表示/違反報告)
冷麦(プロフ) - 天然ぐりーんてぃーさん» 語彙力欠如嬉しいです!ぬぉわぁっに愛を感じます笑引き続き読んでくださっていて嬉しいです…ありがとうございます!北斗さんも引き続き登場しますのでよろしくお願いします! (2019年7月24日 12時) (レス) id: 5b6161b271 (このIDを非表示/違反報告)
天然ぐりーんてぃー(プロフ) - ぬぉわぁっ!(作ちゃんが可愛すぎて語彙力欠如すみません)じれったいのに何処かホッコリとしていて温かいこのお話が大好きです!ほっくん、さりげなくキューピッドになりそうな予感(笑) (2019年7月23日 23時) (レス) id: 735b9b69af (このIDを非表示/違反報告)
冷麦(プロフ) - 天然ぐりーんてぃーさん» 素敵な感想をありがとうございます!作間くんのそういうところが書きたかったのでとても嬉しいです!モチベーションが上がりました、引き続き読んでくださると嬉しいです。 (2019年7月9日 17時) (レス) id: 5b6161b271 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冷麦 | 作成日時:2019年6月20日 11時