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** ジェームズ side
.



「...大変だったな」
「すみません、気を遣わせてしまって」
「いや、こういう時ぐらい上司に甘えなさい」



彼女は申し訳なさそうに深く頭を下げた。
唯一の肉親を亡くしたというのに、周りを気遣ってしまう彼女の姿に思わず目頭を押さえる。



「でも、不思議なんですよね」
「何がだい?」
「...兄が死んだって、全然実感がわかないんです」



何でですかね?と零した口元にはこの数日間の疲労が現れていた。



「それは...お兄さんのご遺体を見ていないからじゃないか?」



私の言葉に彼女は目を丸くすると、そうかもしれません、と力なく呟いた。

彼女はこっちに帰ってきてからずっと研究室に籠もりっきりで。
携帯電話に付着していた血液を極秘でDNA鑑定して兄のものであると特定し、破壊されたSDカードとメモリーを修復する作業に追われていた。

何度か差し入れをしに行ったが、彼女はこの世界とは遮断されたところにでもいるかのようにピクリとも反応しなかった。
その目は、何か必死にある答えを模索しているように見えた。



「もう今日は家に帰って休みなさい。しばらく帰ってないんだろう?」
「帰ってないと言っても、10日程度ですよ。日本も日帰りですし」
「飛行機に乗っていた時間も入れたら十分家を空けすぎだ。一旦帰りなさい」
「...はい」



彼女は帰り際に"あ"と声を上げると、こちらを振り返った。



「あの、さっき提出した携帯電話なんですが...まだ調べたいことがあって」
「あぁ、構わんよ。納得いくまで調べなさい」



君に見せて貰った、その携帯電話。
私にはどうも、亡き君のお兄さんからのメッセージに思えて仕方ないんだ。

彼がこの世を去る直前まで共にしていたかったもの。
それはきっと...赤井君も分かっていたのだろう。

でも、いくら周りが分かっていてもA君本人が分からなきゃ意味がない。



「ジョディ君達には、君のお兄さんのことは話さないでおくよ」
「...助かります」



さあ、一度冷静になって泣きなさい。
君はいつでも冷静だけれど、時に冷静さを保とうとするあまりに自分の感情を必要以上に蓋をで押さえてしまうようだ。

泣いていいんだ。
きっと、君は涙を流すことでまた強くなれるはず。


どうか...どうか彼女に。
お兄さんの愛情溢れる気持ちが届きますように。



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あーさ(プロフ) - とても深いグリーンさん» ご愛読ありがとうございます!r18タグに関しましては目次のページを御覧下さい♪ (2018年4月19日 1時) (レス) id: 40de11ab60 (このIDを非表示/違反報告)
とても深いグリーン(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます(о´∀`о)ところで話は変わるんですが、どうしてR-18になってるんですか? (2018年4月18日 23時) (レス) id: 629a69f0d0 (このIDを非表示/違反報告)
あーさ(プロフ) - 佰さん» なんと嬉しいお言葉...(T^T)書きたいときに書く気分屋野郎ですが、よろしくお願いします! (2018年3月1日 17時) (レス) id: 611fb27d39 (このIDを非表示/違反報告)
- すごくいい話ですね!もう感動しました。続き楽しみにしています!これからも更新頑張ってください! (2018年2月27日 21時) (レス) id: e1e57bb127 (このIDを非表示/違反報告)
あーさ(プロフ) - 那月さん» はじめまして(^^) な、なんと...!貴重な情報提供をありがとうございます!間違ってなくてよかったです...とても安心しました(^◇^) (2017年10月1日 20時) (レス) id: 611fb27d39 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あーさ | 作者ホームページ:nothing  
作成日時:2017年10月1日 0時

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