第68話 ページ18
セブルスside
城の庭はペンキを塗ったばかりのように、陽の光に輝いていた。
雲一つない空が、キラキラ光る滑らかな湖に映る自分の姿に微笑みかけ、艶やかな緑の芝生が、優しいそよ風に時折漣を立てている。
もう六月だった。
禁じられた森から出てきたAを見てからだいぶ経つが、あの顔は嘘だったかのように慈愛の満ちた顔で生徒を見ていた。
地獄を天国と断ずるような、悲劇を至上と嗤うような。
まさにラミアーに相応しい表情だった。
あれは、彼女であって彼女でない。
今この瞬間も、あの得体の知れない生き物に変容しているのではないのか。
そう思わせるほど自然で、かつ歪な変化だった。
OWL試験に最も出題されそうな予想問題の練習に授業時間を費やすなか、我輩は彼女を観察する。
時折目が合うと、彼女は笑みを浮かべる。
口角の上げ方ひとつ、眦の下げ方ひとつ。
どうやったら自分が一番魅力的に映るか計算し尽くされた微笑みだ。
その狡猾さに、大きな不安を感じる。
表向きの彼女の中に、別の彼女がいる感覚。
いつ敵に回ってもおかしくない得体の知れなさが、彼女にはある。
だからこそ警戒しなくてはならない。
闇の帝王が本格的に活動を始めるまでは息を潜めるつもりなのかは知らんが、律儀に魔法省との契約を守り、城をでない今こそ、好機なのだ。
そう、我輩が警戒すべきはAが唯一自由に動かせる手駒…クィレルだ。
あのいけ好かない男とAの過ごす時間が増えていっている。
何しろ一度闇の帝王に身体を差し出した男だ、Aの為ならば命さえ捧げるだろう。
「随分と熱い視線を送ってくれるのね」
「不躾だと感じたなら謝罪しよう」
「そういうのじゃないわ。だた…」
「ただ？」
耳を貸せと、温度の低い手がそっと顔の横にそえられた。
小指の付け根から手首に至る側面が頬骨のあたりをぎゅっと押さえて、綺麗に整えられた爪の先が僅かに我輩のもみあげの髪をかきあげた。
きゃあ、という女子生徒の悲鳴に似た歓声が、随分遠くに感じる。
そして吐息が耳穴をかすめる。
甘く、優しい、美しい声が、直接我輩の脳細胞へと注ぎ込まれる。
「なにかしようと企んでるなら、その真意は気取られぬように隠しなさい。さもないと…縊り殺してしまうから」
歌うような呪詛だった。
鐘が鳴ると共に、ぺちゃくちゃ声が廊下に出て行った。
憶測が様々飛び交うだろうが、誰一人として言われたことを当てられる奴はいまい。
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夜彩(プロフ) - atheneさん» ご指摘ありがとうございます。私自身もおかしいなとは感じていたので…また何か誤字、脱字等ございましたらお気軽にお知らせ下さい (2022年7月27日 13時) (
レス) id: bd39633a4b (このIDを非表示/違反報告)
athene(プロフ) - クィレル先生は「クウィレル」ではなく「クィレル」です。とても面白いので、いつも楽しみにしています！二人の関係の切なさがなんともいえません！ (2022年6月13日 0時) (レス) @page26 id: e8c4b441c6 (このIDを非表示/違反報告)
理音(プロフ) - 続き気になります！更新楽しみにしています！ (2022年3月30日 2時) (レス) id: d1bb6ccd48 (このIDを非表示/違反報告)
まい(プロフ) - お久しぶりです泣 楽しみに待ってました泣 (2021年12月23日 22時) (レス) @page12 id: b1e8907435 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜彩 | 作成日時：2021年8月4日 1時
