もう1人の伝説 (ページ10)

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早めの仕事ページ10

『橋本さ…じゃなくて、奈々未。どうしたの？』

「あ、えっと…A、飲み物買いたいんだけど…こういう時って買っていいの？」

『あぁ…全然いいんだよ。今は時間もそんなきっちり決まってるわけじゃ無いから。』

「そうなんだ…じゃあ買ってこ。」

『ん。待ってるから、急がなくていいよ。』

「え、でも…しーちゃん達も待たせちゃ悪いよ。」

『先に行ってて貰える？って言ったから大丈夫。安心して。』

Aはそう言ってふわっと笑った。
…すごいな、これが元子役の余裕なのかな…
そんなことを思いながらボタンを押す。
テレビで見ていた芸能人が隣にいるのは、普通すごく変な感じになるはずだけど…
Aはそんなことを感じさせないほど私達に対して優しかった。

「…ありがとA。」

『大丈夫。行こ？』

リュックを背負い直して、Aが笑う。
私も笑い返して、外へと繋がるドアを開けた。
次の瞬間、激しいシャッター音に私たちは囲まれた。

「え、なにこれ…」

『…仕事早っ…頭になかったなぁ…』

Aが小さく呟いてカメラから私を隠す。

「A…？」

『奈々未、カメラの間通ってバス行ける？先に帰るように、言ってもらってもいい？』

「え、でも…Aは？」

『このカメラ、多分全部私に…ううん。稲垣Aに対するものだから。
全部対処してから帰るから、安心して。』

「でも…」

『…巻き込ませたくなかったのに…ごめんね、私のせいだ。』

Aはそう呟いて後ろ手で私を抱きしめた。