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「春千夜さん……春千夜さんっ……」



汗を額に浮かべながら少し唸って、私の膝の上で倒れている春千夜さんに声をかけ続けた。

車の速度は法定速度なんてものを守っていなくて相当早いスピードで進んでいるのに、私にはやはり遅く感じてしまう。

今の私の頭の中には、春千夜さんに生きてて欲しい。

その気持ちと言葉以外は入っていないのだから。




「到着。んじゃ、お願いします」




黒髪の彼が淡々と誰かにそう伝えると、どこからともなく人が出てきて私の太ももから春千夜さんを離してしまう。

離さないと、運ばないと春千夜さんが助からないことは分かっているのに

先程まで感じていた感覚がなくなってしまうと、途端に不安になってしまう。





「お嬢さん、温かい飲み物でも飲みに行きませんか?」

「え?あ、で、も……春千夜さんの……そばに…」




後部座席を開けてくれて手を差し伸べてくれるこの人はきっと優しい人だ。

私の心細くて不安な気持ちをおそらく察してくれて知るのだろう。

それでも、私はこの車を離れることが出来なかった。

あのキスが私に対しての気持ちのキスではなかったとしても

彼が求めている人が私じゃなくて別の人だとしても

それでも私は、春千夜さんの近くに居たいと願ってしまうのだ。





「俺が選んだ優秀な病院だって言っても?」

「……はい」




大きなため息がひとつ聞こえると、分かったと、そう言って私を手術室の前まで連れてきてくれた。

赤く光る手術中の文字が妙な不安を私に植え付ける。

来たから何が変わる訳もなく、ただただ時間が過ぎて

時間が経過する度に私の心は悪い方に悪い方に考えてしまうのだ。





「Aッ……!!」

「蘭く……ん」





決して無事だとは言い難い、負傷中の私の兄は私の姿を見つけると強い力で抱きしめた。

苦しいほどに、でも、今はそれが少し安心してしまう。

大丈夫?と聞くと、死ぬわけねぇじゃんと私の頭を撫でてくれる。




「蘭くっ……ん……春千夜さんがっ……」

「ごめんな、怖かったよな」



安心が私の張りつめていた緊張の糸をいとも簡単に切ってしまう。

春千夜さんが助からなかったらどうしよう

二度と話せなくなったら?
あの声を聞けなくなってしまったら?

春千夜さんという存在が、消えてしまったらどうしよう

挙げたらキリが無いけど色んな感情がグチャグチャに弾け飛んでしまった。




「冷たく、なって……っ……」

「A泣かせた罰で、俺とゲームの刑だなー、アイツ」



いつもの調子でそう言って、泣きじゃくっている私をあやす様に背中を蘭くんは何時間も撫でてくれているのだった。

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設定タグ:東京リベンジャーズ , 三途春千夜 , 灰谷兄弟   
作品ジャンル:恋愛
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マニ。(プロフ) - もむさん» ✉️。この作品凄く面白いです! (1月14日 11時) (レス) id: 4c65165166 (このIDを非表示/違反報告)
もむ(プロフ) - じろにゃん★さん» ありがとうございますー!!!頑張りますね!これからもよろしくお願いします!! (1月10日 22時) (レス) id: 4f36815b2b (このIDを非表示/違反報告)
もむ(プロフ) - うさこさん» あぁぁぁぁぁ……!ありがとうございます!!そんな!嬉しすぎる……!本当にありがとうございます!お返事遅くなってしまいすみませんでした……!!!続き頑張ります!!これからもよろしくお願いします!!! (1月10日 21時) (レス) id: 4f36815b2b (このIDを非表示/違反報告)
じろにゃん★ - 続きを楽しみにしてます! (1月8日 16時) (レス) id: 2ad09e2f31 (このIDを非表示/違反報告)
うさこ - 完璧すぎる…(;;)続き待ってます(´;ω;`)!! (1月5日 22時) (レス) @page48 id: d68f8df98a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もむ | 作成日時:2023年10月24日 13時

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