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何も着飾っていない私に気を使ってくれたのか、ただ、こんな何もしてない女と本当は連れて歩きたくないのか春千夜さんはただ車を走らせて色々な景色を私の眼に焼き付けさせてくれた。
普段から家に籠るのが好きな私にとって新鮮な景色ばかりで助手席で会話を盛り上げなければいけない立場でありながら景色を堪能してしまっているのに
春千夜さんはそれを咎めることはしなかった。
「おいA」
「はい?」
「いつまで俺を放置するつもりだおい」
ただ、それも時間の問題と言うやつで
我慢の限界が来てしまったのか、顳かみに少し青筋を立てながら口角を上げる春千夜さん。
怖くないと言ったことを撤回せざる負えないくらいに、他者から見たその表情はきっと般若そのものだっただろう。
「すみません…新鮮な景色だったもので…」
「箱入り娘すぎんだよ、Aは」
「あ、いえ、そういうことではなく、私家に籠っているのを何よりの喜びにしているので、春千夜さんと見てるこの景色が凄く輝いて見えて楽しくて」
赤信号で停車するタイミングで春千夜さんの目を真っ直ぐ見る。
取り繕っている言葉ではなくて本心で言っているんだと、変な誤解は産みたくないとそういう気持ちで彼を見つめると
彼は、ただ一言____物好きな女。
そう言って前を向いてしまった。
今が夜じゃなかったら、春千夜さんが赤くしていた耳を私は見ることが出来ていたのだろうが生憎、一瞬でもその光景を見ることが出来なかったのが
今でも少し、悔しいと思ってしまう。
「お前、ピアス右耳に1つ空いてるよな?」
「え?あ、はい」
なぜ知っているのか、という疑問は今となっては愚問であるがこの時の私は不思議で仕方がなかった。
なぜなら私達は、お互いのことをよく知らない関係だと思っていたのだから。
「やる、それ。要らねぇし」
「わっ…!可愛いピアス…!」
要らない____そういった割にはきちんとラッピングをされていたピアスに内心、誰かに渡しそびれたお古では無いかも思うと
同じ春千夜さんから貰ったものでも、なぜだか要らないという気持ちが私の中で溢れてしまう。
「でも、私は要らないものを渡されるくらいに、春千夜さんにとってどうでもいい人ですか?」
だから、思っても言えない言葉がつらつら出てきてしまったのだ。
「…お前…本気でそう思ってんのか」
春千夜さんは適当な路肩に車を止めると、運転席から私に覆い被さると
「んっ…」
「これ選ぶのに何時間かけたと思ってんだよ」
私の右耳に優しく桜のモチーフのそれをそっと付けた。
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マニ。(プロフ) - もむさん» ✉️。この作品凄く面白いです! (1月14日 11時) (レス) id: 4c65165166 (このIDを非表示/違反報告)
もむ(プロフ) - じろにゃん★さん» ありがとうございますー!!!頑張りますね!これからもよろしくお願いします!! (1月10日 22時) (レス) id: 4f36815b2b (このIDを非表示/違反報告)
もむ(プロフ) - うさこさん» あぁぁぁぁぁ……!ありがとうございます!!そんな!嬉しすぎる……!本当にありがとうございます!お返事遅くなってしまいすみませんでした……!!!続き頑張ります!!これからもよろしくお願いします!!! (1月10日 21時) (レス) id: 4f36815b2b (このIDを非表示/違反報告)
じろにゃん★ - 続きを楽しみにしてます! (1月8日 16時) (レス) id: 2ad09e2f31 (このIDを非表示/違反報告)
うさこ - 完璧すぎる…(;;)続き待ってます(´;ω;`)!! (1月5日 22時) (レス) @page48 id: d68f8df98a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もむ | 作成日時:2023年10月24日 13時