Seaside Bound ページ5
日高光啓(25) AA(24)
●光啓
今日は彼女との最後のデートの日
いつも以上に気合を入れて準備を進める
彼女には俺以外の婚約者がいる
そのことを俺が知ったのはつい最近のことだ
決して二股ではなく、親が勝手に決めた相手だ一度
彼女の両親に挨拶に行ったが猛反対された
その時に婚約者がいることを知った
あの時は生きた心地がしなかった
半ば強引に家から出され、何も考えず帰路についた
その後Aと相談して、今日を最後の日にしようと決め、俺は決意をした
『おはよう、光啓』
光「…おはよう」
時間が止まってしまえばいい
そう何度思っただろう
そんな小さな願いは叶わず、あっという間に時間は過ぎていった
今日しか無いかもしれない
そう思った俺は一日の最後にお気に入りの海に向かった
君に海はよく似合う
嬉しそうに笑ってはいたが、その横顔は少し切なそうで
呼び止めようにも呼び止められず
俺はただ君の後ろ姿を見つめていた
『ねぇねぇ』
光「ん？」
『見て、あそこ道がある』
光「ん、お、本当だ」
『行ってみたい』
俺のTシャツを軽く引っ張り、無邪気に笑う君
そのお願いを断る術なんてあいにく持ち合わせてはいない
引き潮でできた道を並んで進めば、そこには小さな洞窟があった
服も着たまま膝上あたりまで海水に入り、ふわりと笑う君
ふと目に入った耳元で小さく光る俺の知らないピアス
あぁ、あいつからもらったんだろうな
行き場の気持ちを潮風に任せた
《もう少し2人でいたい》
口に出す前に消える
君に伝えたらきっと迷惑にしかならない
きっと正解なんてない
どうしようもない気持ちと言葉
波に攫われてしまいそうな君に笑みを向けた
抱き寄せるなんて出来ない
ふと重なった手の平は付き合いたての頃と何も変わらない
『光啓も入ったら良いのに』
光「溺れたらやだもん」
『溺れないよw
かわい子ぶっちゃってー』
こんなところAの両親に見られたらなんて言い訳をしよう
こんなことを考えてる時間なんてない
並んで砂浜に座り、手を繋ぎ、海を眺める
右肩が少し重くなった
見ればAが肩に頭を乗せていた
『もう少しこのままでいたい』
そう言ってAは小さく息をはいた
俺はなんとも言えない気持ちになり、淡く濡れた唇に柔らかく口付けた
微かに潮風の味を感じる
光「今のAが一番綺麗だよ」
『またそんな皮肉言っちゃって』
そこで暫くの沈黙
言葉を発したのは君だった
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作者名：your-ゆあ- | 作成日時：2021年7月22日 22時
