橙色の空の下で。3 (ページ10)

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「…わたしの、セリフだよ」

「へ？」

「"避けずに会ってくれる？"なんて、私のセリフだよ…。今まで自分のことばっかりで、言動でも行動でも傷つけて。今日だってたくさん傷つけて…。」

なんで泣きそうなんだろう。

悪いのはわたしなのに。

泣く権利なんて持ち合わせてないのに。

まだ覚めきっていない酔いの所為だと信じたい。

「お互い様だって。そんなに自分ばっか責めないの！これから9年分会いまくればいいんだからさ。仕事の愚痴とか、聞いてよ。ね？」

「…うん。」

この人は、ほんとにずるい。

わたしが"うん"って頷くしかなくなる状況を作るのが上手い。

仕事の愚痴なんて絶対言わないくせに。

自分が頑張りたいことに対して愚痴なんて零さないのはよく知ってる。

ギターもダンスもそうだった。

なのに、わたしが会いやすいようにこうやって嘘を言ってくれる。

ほんとに、ずるいなぁ。

「よしよし、素直に育ってるじゃない。あ、もう着くんだけど、どの建物？」

「あ、あそこのやつ、」

たかちゃんの家に比べたら天と地の差だけれど。

大学生にしたらなかなかなセキュリティーのマンションに住んでいる。

「よかったー、セキュリティ良さそうな家で。よーし、着いた！北海道と違って治安悪いからね？しっかり鍵かけて寝ること、わかった？」

まるで小学生に言い聞かせるみたいにわたしに言う。

もう22歳なんだけどなぁ、なんて思うと笑みが零れる。

「送ってくれてありがとう、おやすみなさい。」

最後の最後にお礼を笑顔で言えて良かった。

これもたかちゃんの魔法かな、なんて。

柄にもなくメルヘンなことを思ってみる。

伝えなきゃいけないことを全て伝えられた訳では無いけれど。

9年分を埋めてくこれからの日々で伝えていこう。

「ん、おやすみな。」

たかちゃんはそう言って車を出す。

長い長い１日にようやくピリオドが打たれた。

…それと同時に、9年間止まっていた歯車が漸く動き出した。