今宵は月が赤いですね。光ノ章

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死ぬ覚悟なんかじゃ足りない。

死ということに羨望を抱く人だっている。
死んでようやく幸せになる人がいる。


でもそれでも、お願いだから生きてほしい。
他に何も望まないから、どうかお願いだから。



ワァッと声を上げながら、
小さな子供みたいに泣きわめいた。


なんで私泣いてんの、情緒不安定かよ。

そんな風に思いながらも、
やっぱり皆のことを考えると辛すぎて。



ごめんなさい、こんな事言う気なかったのに。
皆の覚悟を否定する形になってごめんなさい。


我儘なのは百も承知なの。
だけど聞いてほしい、紙面の向こうの人の声。



皆が掴み取った鬼のいない世界。
それをその本人達が見なくてどうするの。

苦しみ続けた人達が報われるのは
やっと天国に行けてからってどうなのよ。




「……お前の話は筋が通っていなさすぎる。
何が言いたいか全く理解できないね、俺は頭痛がしてきたんだが」


『……ごめんなさい。忘れて下さい』




私の価値観を押しつけちゃいけない。

死へ対する思いは必ずしも同じとは限らない。
私とこの人達じゃ、そのものへの覚悟が違う。


そんなの、読者だった時から分かってる。




「……伊黒、俺はこの子を信じたいと思う」


「何を言っているんだ煉獄。
奴は異世界者、俺は信用しない信用しない」


「この子は命を懸けて俺達を守ってくれた。
上弦の鬼を相手に、たった一人で。

AにはAなりの思いがあり、
それを俺達が否定することは望ましくない」




焦点の合わない大きな目が伏せられ、
彼に似合わない小さい声がまたも耳に届いた。

その間も炎柱の温かい手は私の肩にある。


あるはずのなかった温もりが、
血液に溶けて私の体に流れていくようだった。




「…改めて礼を言いたい、A。
君のお陰で我が家が息を吹き返したんだ」


『え？』


「あんなに笑う父上を見たのは久方ぶりだ！
千寿郎も嬉しそうにしていた、ありがとう！」




ぽむち！

本当この音が前々から謎だ。
きっと手が特殊なんだろうな、うん。

ダメだ、思考がおかしくなってる。




「君が何か背負っているのは分かる。

だが小芭内、この子は鬼殺隊の光となる子だ。どうか信じてやってほしい」




伊黒さんが鏑丸に手を擦り寄せた。
それに巻きつく鏑丸の赤い目が細められる。

可愛いな。


色の違う彼の目が、私を芯まで見つめてくる。

その目は鋭いながらに優しくて、
少しも視線を痛く感じることはなかった。

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