今宵は月が赤いですね。光ノ章

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数年この世界で生きていると言えども、
私はあくまで令和からの転生者。

和菓子より洋菓子に慣れ親しんだ身からして、どれもこれも目新しくて決められない。


炭治郎たちが入隊するまで大人しくしてたし、あんまりこの時代の人とも交流がなかった。




「…早く決めなよ」


『待って、あとちょっと迷わせて下さい！』




和菓子って全部が繊細で綺麗。
目で眺めるだけでもお腹いっぱいになりそうなのに、それを1つに決めるんだから迷うでしょ？




「すいません、これ２つ」


『あっ、気になってたやつ……』


「あいよ、水ぼたん２つね」




キラキラした透明の膜に、ピンク色のコロンとしたのが包まれてる可愛いお菓子。

膜が少しクシャッてしていて、
しのぶさんの羽織の蝶の羽を思わせた。




『決めるの早いですねぇ…』


「……菓子なんて、何だって同じでしょ」




不自然に私から目を逸らした師範。
少し引っ掛かりつつ、おばちゃんから包みを受け取った。




「お嬢ちゃん、牡丹といえば？」


『ぼ、牡丹といえば、ですか？』




令和の転生JCには難しいナゾナゾですね。
牡丹なんか私たぶん見たこともないよ。




「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花って言葉、知ってるだろ？お嬢ちゃんにピッタリだぁね」


『やだおばちゃん誉め上手！！』




私さ、転生でちょぴっとチートついてるの。
解毒と止血は出来るようになってんのよ。
そんでついでに少しは美形になってるの。
少しは、ね。ここ重要。

だけど誰にも容姿を誉められた事がない。
まぁ鬼滅キャラ美形だらけだし諦めてたけど。
甘味処のおばちゃんに感謝するわ。




「ほら早く行くよ馬鹿」


『しっつれいな！』




店に入るときとは反対に、
私が引きずられるようにして外に出た。




『あ、奢ってくれてありがとうございました』


「別に」




つれないなぁ、ほんとに。




『ねぇ、水ぼたん選んだのって、座れば牡丹の言葉を連想したからですか？』


「………」


『すみません調子乗りました』




初めからこれっぽっちも期待してないけど、
無視されたらだいぶキツいよ。

せめてバカって言って、もうバカでいいから。




「…そうだよ」


『ん？』


「君を見て、何となくそれを連想したから。
……これでいい？早く行くよ」




私の手から包みを取り、持ってくれた。


目は合わなかったけど、髪の隙間から見えた耳は真っ赤に染まっていた。

夕日のせいじゃない、赤色。

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