ひとつ ページ1
.
「はぁ、」
何度目の溜息か分からない。
よく、「溜息を吐くと幸せが逃げる」というけれど
逃げていくような幸せが私にあるかと言えば、
自信をもって大きく首を横に振る。
溜息くらいで幸せが逃げる人はどれだけ身体に
幸せが詰まっているのだろう。
幸せだとかそんな媒体のないものが逃げると
いうのだから不幸せも同じように逃げてくれれば
良いのにね。
私の身体から逃げていくのは酸素だけだ。
＿＿＿＿＿そしてそのまま、
「ただいま！」
憎らしいほどに愛しい声。
毎度毎度仕事終わりによくもまあそんな元気に
帰ってこれること。
「……おかえり、」
「Aっ、ただいま」
ワンコロのようなつぶらな目。
嬉しそうに歪む口元。
ふわり、外の匂いを引き連れて彼の香りに包まれる。
「あー……しあわせ」
「………………」
ぎゅっと抱きしめられて、
きゅっと鎖骨のあたりが軋む。
あたたかい。
「A、こっち向いて」
「ん？どうしたの……ん、」
「ふふ、ちゅ……かぁわいい」
「も……ここ玄関、」
「ベッドだったら良いって？」
「……」
「ちょ、ごめんって〜」
冗談で少し機嫌を損ねた振りをして
リビングへと戻る。
後ろからご機嫌をとるような猫なで声が
不覚にも可愛いと感じた。
.
きっと彼は溜息を吐けば幸せが逃げるような
幸せの貯蓄がある人間だろうし
そもそも溜息を吐くことすら知らないほどに
満ち足りた人間だろう
容姿端麗で人生の勝ち組
人と好意の輪の中心にいるような。
なんだ？しあわせのかたまり？
私は、
私の身体から逃げていくのは、酸素だけだ。
そしてそのまま
.
.
「いつから」と問われれば、
それは「はじめから」と答える。
.
「しあわせのかたまり」な彼の中で
唯一不幸せなことと言えば
私なんかと付き合っていることだと
胸を張って言える。
すぴすぴと子犬のような寝息を立てて
深い眠りに落ちた彼の頬を、人差し指で撫でながら
「……ん、アユ……」
私はまたひとつ、大きな溜息を吐く
するりするりと逃げていく酸素
そしてそのまま、
.
「しあわせのかたまり」な彼の中で
唯一不幸せなことは
好きな人と結ばれないこと、ただそれだけだ。
彼には、好きな人がいる。
＊＊＊
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1481人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
るじぇ(プロフ) - 久しぶりの更新とっても嬉しいです！！！！！！大変だと思いますが、お話大好きなので続きたのしみです！ (2022年10月11日 8時) (
レス) @page35 id: a3715a06d4 (このIDを非表示/違反報告)
林檎(プロフ) - はじめまして！ほんっうにこの作品大好きです！更新お待ちしております！ (2021年6月13日 23時) (レス) id: 96ebd3d640 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えだまめ | 作成日時：2019年2月8日 18時
