【鬼滅の刃】ねぇ、守れたよ【肆】

【佰拾参】休息。 ページ21

side無し

百｢…は？｣

大きくて丸い瞳が、驚愕に見開かれる。
杏華の切れ長の瞳は、少しも揺れてはいなかった。

『トラウマだからなんだ、前世だからなんだ。
そんな事で折れる程、私はもう弱くはない。
舐めて貰っては困るな』

前世のトラウマがどうであろうと、今世は確かに弟を救ったのだ。
これは紛れもない事実であろう。
だって、確かにその記憶があるのだから。

百｢っ…｣

あの太陽のような笑顔を、確かに守れたのだから。

それだけで、姉冥利に尽きるという物。

『……ま、だからといって君を消すつもりも無いが』

百｢……え？｣

再度、驚愕に見開かれた。

対する杏華の瞳は、不思議な程に凪いでいた。
まるで、そう言うのが必然のように。
一切の疑念や驕りなどは一切感じさせず、ただただ目の前の拙いトラウマと向き合っていた。

百｢…なんで、どうして？私は貴方のトラウマ、本来は必要無い存在。
……どうして、優しくするの｣

『優しく、かぁ……んーそうだな…』

ポスッと床に胡座をかき、座り込んだ。
…嗚呼やはり、似ている。
己はいらない存在だと言うのに、その癖何処か『置いていかないで』と縋る様な瞳が。
酷く、自分と似ていて。

到底、心に巣食うトラウマだけでは無いように感じたのだ。

やるべき事を終えて、少し自分の心と向き合う余裕が出てきた。

そして分かったのだ、己はとうにこの世界の住人なのだと。
自分という存在を、【煉獄杏華】という一人の人間を愛してくれた仲間達の愛を受け取らないのは、紛れもなく彼らを侮辱しているのだとと。

要らない存在では無い、飽きたら捨てられる存在でも無い。

生きているのだ、彼女も、彼らも。

紛れもなく、命がある存在。



皆々、幾星霜を煌めく命なのだ




部外者等ではない、彼女も無論その中に入っている。
自分を愛してくれる仲間達が、いつもそうしてくれているように。
その為には、まだ生きなければならない。

隙あらば小刀を取り出してしまう自分も、夜な夜な啜り泣く自分も、全部全部、受け入れよう。


だって、私は私なのだから。

人脈深い彼女が、自分とも友達になっていない訳が無かった。

【夢主side】

私は私だ。

煉獄杏華という一人の人間だ。

その事実を、誰にも奪わせはしない。

そして、百合も私だ。

前世の私、そして友達だ。
トラウマ？そんなの共存していけば良いだろう。




だって────道を示してくれたのは、彼女なのだから。





『百回出会って、百回別れる。
……ほぉら、何とも私らしい名前じゃないか』

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