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『お疲れー！』
そう声をかけると河野くんが走って近くまでやってきた。
何故か白岩も連れて。
ギャラリーからキャー！と黄色い歓声が上がる。
「純喜くん、近くで見れた！」、「るんき尊い…」、「やばい！王子カッコ良すぎる！」とまあ河野くんのおかげで彼女たちは盛り上がっている。
純「今帰り？」
『うん。サッカー部がいたから何となく見てたけど華麗なパスだったね。びっくりしちゃった』
純「見とってくれたん！？というか高城さんサッカーわかるん？」
興奮気味の河野くんに、いや全然、と答えようと思って口を開いたが、その言葉は他の誰かによって代弁された。
「いや全然。こいつサッカー全く分かんないよ」
『え………』
白岩だった。
まさか彼に先を越されるなんて思っていなかったわたしはポカンとしてしまった。
そんなことで？と思われるかもしれないが、業務連絡のみでほぼ無視に近い状態をずっと続けられてたわたしにとっては一大事である。
純「あれ？有識者かと思ったけどちゃうかったか」
河野くんは特に気にしてない様子で続けた。
純「あ、そうや。今度の日曜に試合あるんやけどさ、割と会場近いし、暇やったら仲道さんと見にきてな」
仲道は美彩の名字だ。
美彩もスポーツ観戦好きだし誘ってみるね、と返すと白岩が驚いたような表情をしていた。
『そろそろ戻ったほうがいいんじゃない？』
純「おう！そうやな！じゃあまた明日。気をつけて帰ってな！」
『はーい。じゃあね』
そう言ってくるりとグラウンドに背を向けて帰路につこうと思ったその時。
「なあ」
『……なに？』
「まじで大会来んの？」
声をかけてきた白岩の背中から夕日が差し込む。ちょうど逆光になってしまい、表情が分からないけど声色がいつもより柔らかい気がした。
『え、あ、ごめん……？嫌だったら、行かない、よ』
質問の意図が汲み取れなくてよく分からないまま謝ってしまった。そんなわたしを見て白岩はふっ、と声を漏らして笑っていた。
「いや、なんで謝んだよ。別に、嫌とかじゃない。……来るならちゃんとサッカー勉強してこいよ」
じゃあな、と彼は踵を返して走っていった。
白岩の笑顔がわたしに向けられたのいつぶりだろう。久しぶりに間近で見た笑顔に何だか不思議な感情になってしまって、ぼーっとしていたらいつのまにか自分の家の前にいた。
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作者名：あい | 作成日時：2023年11月13日 20時
