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Aに触れられたところだけじんわりと温かくて、その温もりをどうしても手放せない無惨は、もうすぐ目覚めるAに先に握ったのはAの方だと言い訳をして柔らかな手を握り返す。
「…ふはは、」
「!」
突然笑い出すAに驚いて慌てて手を離した無惨は、むしろその刺激で起きてしまったAに、せめてもの気持ちで後ろに下がり距離をとる。
「…あれ、」
ゆっくりと起き上がり不思議そうに無惨を見つめるAは、「夢か」と笑って、「貴方が、笑顔で女の人の声を出す夢をみたの」と思い出し笑いか、声をあげて笑う。
「すごく良い笑顔でね、私とあの人は一緒なんだよって」
あまりに確信をついた言葉にむせそうになる無惨は、「水でも飲むか」と話を逸らして、うなづくAに並々と注いだ水を手渡す。
「…優しいね」
言葉とは裏腹に、微笑みながらも複雑そうに無惨を見つめるAの瞳は、それでも真っ直ぐに無惨を見つめていて、「…優しいんだよね」と今度はA自身に言い聞かせるように呟かれる言葉に、このままではいけないと、無惨は考えるよりも先にAに手を伸ばす。
「…、」
きっと嫌悪の瞳が向けられると覚悟していたのに、返ってきた穏やかな笑顔に無惨はたまらない気持ちにさせられて、そのまま引き寄せた手と共に柔らかな温もりが無惨の胸の中を満たしてくれる。
「… A、」
思わず呼んでしまった名前が、笑ってしまうくらいに愛に溢れていて。
無惨は痛いくらいに、受け入れてはいけない現実を思い知らされる。
「A、」
壊したくないのに離れたくなくて、拒絶しないでくれるAに強まるばかりの腕は、本当にAを壊してしまいそうで怖くなる。
「、っ、」
このままこの気持ちを言葉にすれば、Aはずっと、己の傍にいてくれるのか。
自分の浅ましい乞い心に、無惨は結局それを口にする勇気は出ずにただただAに乞いすがる。
「…。」
全てを分かっているのかいないのか、ゆっくりと背中に回されるAの腕はそのまま優しく無惨の背中を撫でて、そのあまりの優しさに溢れたものは、初めて心の底から溢れてきた、見せかけではない本物の、温かい雫だった。
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明珠(プロフ) - 梨さん» コメントありがとうございます!そしてお返事が遅くなった私のために2回もコメントしていただき、嬉しい限りです。これからもよろしくお願いします!! (10月22日 13時) (レス) @page28 id: 188ff08a0d (このIDを非表示/違反報告)
梨 - 星が赤くなった! (10月1日 15時) (レス) id: cdc22d5592 (このIDを非表示/違反報告)
梨 - 尊いです、、 (7月17日 5時) (レス) id: 885e152231 (このIDを非表示/違反報告)
明珠(プロフ) - 瑠音さん» コメントありがとうございます!!これからも溺愛してもらいますので、最後までお付き合いいただければ嬉しいですっ (6月8日 22時) (レス) id: 188ff08a0d (このIDを非表示/違反報告)
瑠音 - 溺愛無惨様最高です (6月8日 19時) (レス) @page14 id: 0b8cc5461c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:明珠 | 作成日時:2023年5月30日 12時