【WT】出水彼女いるってよ。 (ページ10)

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「私、1週間前から言ってたはすだけど。ノートの提出があるって」

ああ、確かそんなことを言われた気がしなくもない。だからと言って思い出す気は毛頭ないもんだから「そうだっけ」と片言でお惚けてみせる。

すると牧田さんは握り拳をつくるもんだからその拳の行き先が自分であることを察した俺は「提出するから写させて！」と両手を合わせた。これは俺が折れた方が賢明であると言える。

「そういえば牧田さん、これから任務だっけ」
「まあ。でもこのノートを出してからでも遅くないから」

まるで逃がさないと言わんばかりだな。発言した手前逃げるという選択肢を持つほどそこまで俺は狡賢く出来ていない。それに逃げる気があればもうちょっと上手く立ち回っている。

放課後なだけあって教室に残っている人数は少ない。俺と牧田さんは校庭側の一番端の列の前後の席に座っていた。自分のノートを開くと目の前にいる牧田さんの眉間に皺が寄った。あ、やべ。睨まれてら。

「あ、そういやその槍バカはどこいんの？？」
「あいつは放課後になった瞬間ボーダーに飛んで行ったわ」

要するに…

「逃げたな」
「逃げたのよ」

それよりも手を動かしてとノートを写すことを急かされる。大して進んでいないため急かされるのは仕方のないことだが。これいつ終わんだろ。数字と文字の羅列が際限なく並ぶ大学ノートを見つめながらため息をついた。

「俺もこれ写したらボーダー行くかな」
「任務入ってるの？」
「いや、任務入ってんのは明後日。しかも朝一。夜中の任務の方がまだいいけど朝一ってのが辛えんだよな」

「仮眠しっかりとっとかないと朝一で空飛ぶことになるかもね」
「気をつけまーす」

俺はあははっと口を開けて笑う。けれど目の前のこの子の表情は動かない。くすりともしないしなんなら眉間の皺が先ほどより深くなっている。連れないなあ。牧田さん。こういうときはてきとーに笑ってればいいのに。

ーーー俺は牧田りこに嫌われている。

薄々気づいてはいた。

最初笑うのが苦手なのかなと思ったら、そういうわけでもなさそうで。なんならよく笑う方で先生の寒いギャグにだって可笑しそうに笑う。だから男子が苦手なんかと。けど特別苦手というわけでもなさそうで。普通に話すし笑うし。

だから純粋に疑問だった。

相手が俺のときはいつ話しても表情は硬いし、よく眉間に皺を寄せる。まるで不愉快だと言わんばかりに。だからああ、そうかよく分かった。俺、これ嫌われてんだって。

(…………俺、なんかしたっけ？)