【WT】出水彼女いるってよ。 (ページ7)

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一頻り笑えて満足したのか、その人は息をついて『はー、笑った笑った』と意気揚々に声を上げると、今度は目を据えてちゃんと分かってるから、と真っ直ぐに俺を見据えた。

『………なれないよ。いずみは』

どうしてだろうか。その人が静かにそう口にすると、酷く息苦しくなった。自分でも気づかない内に眉間に皺が寄っていることをその人はなんかぶさいくな顔をしていると、俺の眉間をつつきながら笑んだ。

唇を横一文字に引き結んでその人を軽く睨め付けた。けれどその人にとっては揶揄い材料が増えるだけで俺の睨みなど効くはずがない。けれど、そのときはそうせずにはいられなかった。

『かわいくないぞ、いずみ
いつにも増して』
「かわいくなくていいよ」

寂しいことを言うな、とその人は困った様に眉をへの字に曲げた。子供扱いするかのように頭を撫でる手を払い退かし、ゆっくりと息を吐いた。息を吐いて、その人の瞳を真っ直ぐに見ようとして戸惑った。

戸惑って、喉元までかかっていた言葉を勢いよく奥底へ沈めた。出してはいけないような気がした。壊れるのではない、失うのでもない。ただ、それとは違うなにかがそうさせ、恐くなったのだ。俺は伏せた目と同様に顔まで伏せてしまう。

『いずみ、』

ふとその人に呼ばれ、顔を上げた。上げて、目を見開いた。その人の唇が俺の額に押し当てられていたのだ。一瞬だったような、数秒ほどのじっくり間を置いていたのかは分からない。混乱して、当てられていた唇が離れてから俺は額に手を当てた。

見開かれた目の俺とは違い細められた目のその人は、一瞬だけ口角を上げた後背を向けて歩き始めた。

その背は雪も降っていたせいかすぐに見えなくなる。なにかを掴もうとしたのか、はたまた無造作に伸ばされた手なのか。行き場を失った俺の手が手の中に収めたのは掴めやしない空気のみだった。

「………あ、」

そんな手を見つめて、虚しくなった。その場で蹲ると、自然と目から涙が伝った。嗚咽を惨めにもこぼさない様に唇を引き結んだ。ただ自分の意思ではなく勝手に喉が震えて嗚咽をこぼしそうになるから困ったものだ。

俺はゆっくり立ち上がると更に溢れそうになる涙を堰き止めるように力任せに拭った。それなのにまた目に薄く膜がはるものだから上を向いた。

すると鼻がツンとして力任せに拭った目元が外気に触れたせいかひりっとして息をゆっくり吐き出してから俺はその場を後にした。

数日後、届いたメールはそれから4年もの間俺を容易く縛り付けるには充分なものだった。