【WT】出水彼女いるってよ。 (ページ16)

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"秦野さんかわいいのに"

その声が幾度となく反芻する。反芻し過ぎて頭痛すら覚えそうだ。なのにそれは事実であり現実のため私は成す術がない。冗談なら頭痛なんて起こす筈もないが、それが全くもって冗談に聞こえなかったから問題があるのだ。あれは限りなく本気で口にした言葉だ。

「ちょっといい？」
「……いい、けど」

2日後の月曜日。昼休みになった途端に自席を立ち、出水を屋上に来るよう呼びつけた。それだけ聞けば告白だとか良からぬ想像をされそうだがそんなことはどうでもよかった。気が気でない私にできるのは近くで聞き耳を立てていたクラスメイトの想像力が豊か過ぎないことを願うことのみだ。

「出水って秦野のことどう思ってるの？」

屋上につくなり、そう口にした。振り向いて出水と対峙した瞬間そう口にしたことを酷く後悔した。なんせ出水がこれまでにないほどに眉根に皺を寄せ不愉快だなんて物足りないほどにすごい顔をしていたからだ。汚物を見る様な侮蔑さえ感じる目に私は思わず視線を床に落とした。

「なにそれ。牧田さんにそんなん関係なくね？」
「……ないけど、」

分かっている。仮にも出水が秦野をそういう目で見ているとしたら私に口出しをする権利もなければ資格もない。そもそも人の恋路をなんら関係ない人間が土足で踏み荒らすなんぞ野暮もいいところだ。私の今の言動もこの行動もそれに抵触するのではないだろうか。だとしたら私が真っ先に馬に蹴られて死んでしまうだろう。

「なんでんなこと聞くの」
「………出水、言ったじゃない。深く考えずに気軽に聞けばいいって。だから……そうした」
「いや、言ったけどそれとこれとは話は別だろ」
「同じよ」

質問は質問だ。そういえば言葉を詰まらせるのは出水だった。けれど咄嗟に出た苦しい言い訳の言葉に焦ったのは私の方で、確かにそれとこれとは話は別だ、という出水には私も内心では同意していた。というかそれが正論というものだろう。野暮を働いているのも私で、間違っているのも私だ。

「出水は自分の答えはつまらないって言ったよね。なにを聞いてもつまらない答えなら勿体ぶらず教えてくれてもいいじゃない。それにつまる、つまらないは出水が決められることじゃなくて聞き手の私が決めるべきことだから。
だからいいでしょ。教えてよ」

尚の事口を固くしたくなるような私の口振りに嘲笑ったのは他でもない私自身だった。というか頭を抱えた。私はこんなにも傍若無人で無茶苦茶な人間だったのだろうか。