▼ハンプティ・ダンプティは戻せない ページ1
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「別れよ」
そう言ったのは、付き合った時の様に決して気まぐれで言ったわけではなかった。
いつか何処かへ行ってしまいそうな危うさを持っててでもそれを一切悟らせない。
俺自身もなにを考えているか分からないと言われていたことも幸いしてか付き合いやすかった。
付き合った当初、そういう感情を持ち合わせてはいたが互いに薄いけれど壊せない、いや壊させない壁を作っていてそれに気づかない振りをしていた。
多分、それが仇になったのだ。
「マイハニーこっちですよー」
『お、ダーリン』
手を差し出し、重ね、歩き出す。
それはもう日課だった。
蝉が鳴き、耳に残る。
Aはバイト、俺は部活で互いに時間が合いやすいのは深夜頃。
部活自体は終わるのは遅くないけれど、侑に自主練に付き合わされたりして何かとに最後まで残っていた。
Aのとこに行こうにもその頃は丁度バイト中で、時間を有効に使おうと思ったらそっちの方がなにかと都合が良かった。
Aのバイトが終わるのは深夜の12時前。
俺はそれまで繁華街にあるカフェで暇を潰したり、Aのバイト仲間だという人と話したりして彼女を待つ。
「A、今日家泊まっていい?」
『うむ。よいぞ
晩御飯どうする?もう食べたりした?』
「うん。カフェの方で」
『じゃあお菓子とアイス買って帰ろ
角名が観たいって言ってた映画借りて来たんだ
一緒にみよーよ』
それは明日部活がオフというのを見越しての発言。
彼女はいつもそれに合わせてバイトの休みを取った。
試合にも顔を出してくれることだってあった。
望みは、全て叶えてくれた。
相手が望んだことを叶えて、叶えて、望む分だけ与え続けることが満足出来る唯一の手段。
それが彼女なりの繋ぎ止め方だと、当時の俺は知らなかった。
「毎回具材大きいのはなんでなの?」
「性格大雑把だもん。この人」
『おいおい、貴様らもう作ってやらぬぞ??』
弟くんと同じテーブルを囲んで、小さいけれど庭の所でバレーをした。
俺自身、母は実家に残り父と兵庫に来たが、父は大概会社の為滅多に会わなくなっていた。
中学まであった出迎えてくれる母の姿が、今となってはあまり思い出せなくなったけれどそれがなによりの幸せだったと気付かされた。
高校になってからのリビングのテーブルに置かれる様になった千円札。
誰もいない、返事が返ってこない家の中。
それが、少しだけ、…ほんの少しだけ
さびしかったんだ。
だからそのワンルームは俺にとってまるで聖域の様で。
世界で一番、きれいな場所。
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グリム(プロフ) - ヤバイ、凄く引き込まれる!次の投稿待ってます! (1月30日 17時) (レス) @page13 id: 66f712e8a8 (このIDを非表示/違反報告)
はる - 切ない……切なすぎる…。更新ずっと待ってます‼ (10月15日 20時) (レス) @page13 id: 41084e4d77 (このIDを非表示/違反報告)
百合(プロフ) - んごおああああああああ(叫び声)めためた切ない(´;ω;`)次の投稿永遠に待ってます! (6月18日 19時) (レス) @page13 id: 587110230b (このIDを非表示/違反報告)
めぃ(プロフ) - ほんとに最高です!主人公ちゃんへの感情移入凄すぎてしんどいです…(泣) (2022年7月24日 5時) (レス) id: 1ba6cd66fa (このIDを非表示/違反報告)
みるきーばなな(プロフ) - うはぁぁぁ、切ねぇぇぇ、、、ッッ!読みながら涙腺崩壊しそうになったぞおい、、(涙) (2022年7月15日 8時) (レス) @page13 id: bfe5e9257b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チェスター | 作成日時:2021年7月5日 12時