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「――ッ！」
「…大丈夫かい？敦くん」
敦の隣を、男達が走り去っていく。
表情は皆同じ。恐怖。
敦の目の前には太宰がいる。
(…僕は、ヒトリじゃない)
「僕は大丈夫です。…なんとか。」
「今のは異能だね？
それもその様子だと精神汚染の異能のようだ。
話を聞いてみないと。」
その言葉に敦も深く頷く。
太宰がちらと見た異能の少年。左目のアザ。
何処か、敦にとって懐かしい気がするのは気のせいだろうか。
ぼうっとしていた少年は太宰が足取り軽やかに近づいてきたことに気づいたようで困ったように微笑んだ。懐かしい気がしたのは、困ったような微笑みが谷崎に似ているかもしれないと敦は勝手に結論づけた。
「アレ…？
もしかして見ちゃいました？」
「そうなのだよ。君も異能者だね？
実は私たちもでねぇ。私は太宰。そして彼は部下の敦君だ。」
「あつし…？」
「はい！武装探偵社員の中島あｔ…」
敦が身構える間もなく少年は彼の肩を力強く掴んだ。
隣にいた太宰の蓬髪をなびかせて。それはもう、風のように。
「敦…？ 君、中島敦…？」
急なその問いに、敦はこくこくと頷く。それを見て少年の口角は綺麗に上がり敦にずいと近づき顔を綻ばせた。何処か、何処か懐かしい。
「ほぅら、憶えてないのかい？
同じ孤児院だったろう？」
「…え…？」
「ムロウだよ！室生犀星だって！」
敦の脳内の霧が晴れる。
片目のアザ。堅い黒髪。八の字の眉。
小さい子の悪戯で髪を切られたとき、その子達を大声で叱ってくれた彼は、彼は――
「室生、犀星…。犀星くん…？」
その言葉を確かめるように繰り返すと犀星は、ぱぁぁと笑った。
「そう!!思い出したかい？」
「うん！久しぶりだね！犀星くん!!」
幼馴染みとの再会に2人は会話を弾ませる。
近状報告の中で敦はどれだけ自分が恵まれているのかを改めて理解した。
今は劇団��
劇団�狷岫�
先ほど敦と太宰が見てきた劇団の名前だ。
そこでアザのせいで煙たがられながら活動に励んでいたらしい。実力はあるようで今日の公演にも主人公を陥れた青年として出演していたらしい。
そして今日のようにその才能を疎まれ暴力を受けることもあるらしい。
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作者名：木戸 凛々 | 作成日時：2018年4月24日 1時
