第三話 tn視点 ページ4
ぎぃ、と重厚な扉を開くと、ふわりと紙の独特の匂いが鼻に絡み付く。
それに混じって薄ら紅茶の香りもして、休憩中やったかと気が付いた。
きょろりと広大な図書室を見渡すと、本棚の向こうでもぞりと動く人影が見える。その方へ歩いていきながら、頭の中に浮かべた名前を口に出す。
「エミさん、ちょっとええか?」
「おやトントンさん。こんな時間に珍しい」
どうしました?と、指に引っ掛けていた本を棚に押し込みながら月白色の瞳が此方を向いた。
あの部分、ほんまは瞳やのうて虹彩言うらしいな。とどうでも良い過去の蘊蓄を思い出しながら、本の整理をしているエーミールの方に意識を戻す。
「ちょっと頼みたいことがあんねんけど」
「はい、良いですよ」
「まだ何も言うてへんやろが」
すみません、と照れ笑いをする相手を見て思わず肩から…というか全身から脱力するような感覚に陥った。それが却ってどう切り出したものかと考えていた言葉を、するりと押し出してくれる。
「あんな、通訳を頼みたいねん」
「…通訳、ですか?」
きょとんとした顔を見つめながら、しっかりと頷く。本来なら幹部たるエーミールではなく他の誰かを引っ張って来れば良いのだろうが、生憎他国の言語を彼ほど知っている人物に他に心当たりはなかった。
何語のです?という質問に、それがわからんねん、と眉間に皺を寄せる。
「何か、わにゃわにゃ言うとんのはわかんねんけど…」
「わにゃわにゃ…」
「そのわにゃわにゃが分からんねん。然も彼方さん、俺らの言葉もわからんみたいで」
「ええと…単なる旅行者では?ガイドさんから逸れてしまったとか。」
「森ん中やで?んなとこに迷子が居るかい、そんなもんコネシマだけで十分や」
城の周辺に生い茂る森には、ぐるりと囲むようにバリアが張ってある。とある組織に依頼して作成した特殊なもので、バリアのオンオフを切り替えられるスイッチは城の中にあった。特定の装置を身につけているならば触れても反応はしないが、それ以外がバリアに触れると警報が鳴る仕組みとなっている。
そしてその装置は幹部にのみ配られていて、例え我々軍の兵士だとしても作動する。
赤く薄い膜は依然として窓の向こうで揺らめいており、今も問題なく作動しているのは一眼でわかった。
つまりは、警報を作動させないまま外部から侵入できるわけがないのだ。
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ニノ(プロフ) - みずきさん» コメント有難う御座います。実は第七話にてエイリアンネタを入れるつもりでしたが、没となりました。勿体無くて消せておりません。面白いと言って頂けて嬉しいです、そして応援ありがとう御座います!多忙の身故、細々とですが続けさせて頂きたく思います。 (2022年10月8日 23時) (レス) id: 36c64675ec (このIDを非表示/違反報告)
みずき - わぁ、夢主くんがエイリアン?なの初めて見ました!めちゃくちゃおもろいです!応援しとります!頑張ってください! (2022年10月7日 20時) (レス) @page35 id: 129e1b5429 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ニノ | 作成日時:2022年9月14日 1時