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𝟘𝟙 ページ2

右手に小さな花束、左手には通学鞄を。

学校の帰り道。普通ならば真っ直ぐと家へと帰るだろう。

だが俺は、真っ直ぐ帰りやしない。

気付けば“当たり前”となっていた場所が見えて来ると、
気持ちが高揚する。

歩幅を大きくしながら、目的地へと向かった。

____

___

_



総合病院。306号室。

目を瞑ってでも辿り着ける場所。

此の扉を開けば、彼奴にあえる。


コンコン

リズム良く扉をノックすれば、はーい、と声が返ってきた。

扉を横へ滑らせると、其処には、


「よぉ、A。昨日ぶり」

「ふふ、昨日ぶりだね、中原くん」


純白の寝台の上で上体を起こしながら、優しく笑うA。

俺の幼馴染であり、恋人である大切な存在。

此の笑顔を見た事で、1日の疲れが全て吹き飛んでしまった。


「中原くん。今日はどんなお花?」

「ん? あぁ、今日は桜」

「桜! 善いね、此の季節にピッタリだね、桜」


にこにこと笑いながら話すA。

俺も釣られて笑みを溢しながら、Aの寝台の近くの窓辺に
置いてある花瓶に、慎重に桜を生けた。


「此処からも桜、見えるんだけどね、そんなに綺麗に見えないの」

「そうか? 充分綺麗だろ」

「ううん。光の加減とかがイマイチ……でもね、今日中原くんが
桜持って来てくれたから、すっごく嬉しい」

「そりゃ良かった」


見栄え良く花を生け、Aの方へと振り向いた。

互いに目が合うと、Aは目を細め優しく微笑む。

何だか無性に、目の前の此奴を褒めたかった。

そう思えば、仕事は早く。

無意識に俺の右手はAの頭の上に置かれていた。

目を大きく見開き驚くAの顔は、実に面白みがあった。


「な、中原くん……?」

「悪ィな。嫌だったら突き飛ばしてくれて構わねェ」

「い、いや。突き飛ばさないよ……へへっ、ありがとう」


暫く頭を撫でてやり、手を離すと此奴は少々寂しそうな顔を浮かべた。

近くの椅子に腰掛け、俺は何時もの質問を問い掛ける。


「なァ、まだ中也って、呼んでくれねェか?」


我ながら嫌な質問だ。


「んー……そうしたいけど、中原くん呼びが慣れちゃって」


ごめんね、申し訳なさそうに笑うA。

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設定タグ:文スト , 文豪ストレイドッグス , 中原中也   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:れむ | 作成日時:2022年7月2日 19時

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