桃の花言葉【A3!/佐久間咲也】 (ページ19)

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開幕前の、アナウンス。注意事項を聞きながら携帯の電源を切った。
ライトがゆっくり暗くなって周りも静かになる。いよいよ、幕が上がるのだ。

「………」

ブザー音が鳴り、幕が上がった向こうには明るく輝く舞台。

「…！」

佐久間くんが、立っていた。
素敵な衣装に身を包んで、まるでこっちの世界にはいないような、そんな感じ。

「あなた様はどなた様ですか？」

「私の名前はオズワル───オズだ」

会場内に響く佐久間くんの声。待ち望んでいた、舞台上の佐久間くん。
演じている佐久間くんの顔はとても楽しそうで、目も輝いていて、見る人を惹き込ませるようだった。

「あ…」

中盤、南の魔法使いが碓氷くんだということに気付いた。碓氷くんも劇団員だったんだ、一個下なのにすごいなと関心させられる。
そうか、だから佐久間くんと仲良しなんだ。

「サンダー！」

何度もそう叫ぶリックに魔法を使える力はない。それでも、諦めない姿はまるで佐久間くんそのままじゃないかと思ってしまう。
諦めない。私は簡単に佐久間くんと話すことをやめようとしている。

「帰るぞ、リック」

「はい！」

この公演が終わったら、メールでもなんでも佐久間くんに今の気持ちを伝えよう。
今すぐにでも伝えたいという気持ちが溢れて止まらない。初めての舞台で気持ちが高揚しているせいでもあるんだと思う。

「オズ様ー！どうかお達者で！」

「バレないようにって言っただろう。まったく、馬鹿者が。」

舞台は生で観るこの1回1回、役者の表情が違ってきたりするのだろうか。
1回1回全力で演じて、声のトーンが違っていたり、セリフが少し変わったり。
舞台はドラマや映画よりも、私たちとの距離が近いのかもしれない。

「ありがとうございました！」

いつの間にか、公演が終わっていた。
体感5分くらいだった。もっと、もっと観ていたい。この時間がもっと続けば良いのに。
もっと、舞台上で輝く佐久間くんを観ていたいのに。

「はあ～～～良かった…良かったね…！！」

「う……よ…良かったあ、」

「え！？待って号泣！？ハンカチ、拭いて拭いて！」

「すみません……う…」

「せっかく可愛い顔が台無しになっちゃうよ、この後お見送りもあるんだよ～」

「えっ」

ひどい顔になってしまった。涙でぐちょぐちょだ。
頑張って、佐久間くんに格好良かったと伝えよう。