桃の花言葉【A3!/佐久間咲也】 (ページ16)

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「桃野さん、あのね」

「ごめん、ちょっと用事あるから」

「も、桃野さん！」

「……」

最悪だ。あれから、佐久間くんと顔を合わせるのがつらくて避けてしまっている。約1週間ほど。ついには狸寝入り。最悪どころでは済まされない。最低じゃないか。

「…ごめんね、桃野さん、迷惑だよね…」

話したい。話したいけれど、口を開いてしまったらあの子のことばかり聞いてしまいそうで、迂闊には喋ることは出来ない。それ以前に体が勝手に佐久間くんを避ける。
私が1番傷つかない方法を選んでいる。しかし相手は傷ついている。結局は自分が可愛いのだと思うと悔しくてたまらない。

「…また明日」

教室のドアが静かに閉まる音がしてから、顔をゆっくり上げた。このまま佐久間くんと話せなくなったらどうしよう。そうなればそれは勿論、私のせいだ。

「………なにこれ」

机の上に、メモが置かれている。桃野さんへ、と男の子っぽくて、でも丁寧に書かれた文字。淡いピンク色のメモ。桜の香りがほんのりする気がする。

「明日は…頑張るから、俺のこと見ててね、」

見ててね、の後には佐久間くんらしい、びっくりマークがつけられている。
そうだ、明日は千秋楽。佐久間くんがわざわざ用意してくれた席に座らなきゃ。

「見るに決まってるじゃん…」

涙がまた浮かんで頬を伝っていく。嫌だなぁ、私本当に弱くなったな。前はこんなに泣き虫じゃなかったはずなのにな。
明日はちゃんと謝ろう。面と向かって、目を見て、ちゃんと。
せっかく買った、佐久間くんが嬉しいと言ってくれたワンピースも着て。

「…もう泣かない」

涙をぐっと拭い、カバンを持つ。
通学路をオレンジに染める夕日は、もうすぐで消えそうだった。