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「進路?」
「うん、桃野さんはどうするのかな〜って」
「…まだ、あんまり考えてない…やりたいことがなくて。佐久間くんは?」
「俺?…実はね、」
窓から入り込む風に揺られる佐久間くんの、ピンク色の柔らかい髪。
楽しそうな表情に、まだ春だなと感じさせられる。
「え、演劇!?」
「うん、時間を作って、大好きな演劇に使おうと思って」
「…すご…」
「今度、準主演で公演するんだ!」
「……は、反対とかされない…?」
「あはは、先生にはちょっと言われちゃったけど…それでも、俺の居場所はあそこだから頑張りたいんだ」
「…そっか」
まだ何も考えていない私が置いていかれている。佐久間くんのように、周りの皆も進路はもう決まっているのだろう。
5月。もうそろそろ進む道を定めても良い頃だけど、かと言って私には本気で行きたい場所がない。
「……桃野さん」
「?」
「よ、良かったらなんだけど」
「うん?」
「俺達の公演、観に来ない…?」
「…!…い、いいの?」
佐久間くんの演じている姿を見てみたい。きっと素敵なものだと思う。
進路のための、なにか、きっかけとかも見つかるかもしれない。良い気分転換だ。
「でもチケットとかもう売れてたりするんじゃない?」
「俺、持ってるんだ、1枚!」
「…それって」
「うん、桃野さん誘おうかなって、この話する前に用意してて…えへへ、早すぎたかな」
「そっ、そんなこと!ない!」
「あはは!良かった!じゃあ、これ。」
「…わ、」
受け取ったチケットには、春組第四公演「エメラルドのペテン師」と書かれてあった。エメラルドと言われてピンと来るものは、エメラルドグリーン、宝石、あとは…オズ?
「桃野さんのしたいことが、これで少しでも見つかったら嬉しいな」
「…うん、ありがとう、頑張る。」
「うん!あっ、勝手に千秋楽の日にしちゃったんだけど予定とか大丈夫かな…!?」
「あはは、うん、暇だし大丈夫だよ」
「そっか!じゃあ俺頑張るよ!」
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作者名:さいや | 作成日時:2018年7月6日 23時