さよならの前に２【Juri.T】 (ページ11)

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秘密ページ11

A「文恵も逃げてきたの？」

そんな訳ないって知っていて聞く私に、
文恵は案の定、フルフルと首を横に振った。

文恵「ううん、逃げてきた訳じゃなくて、」

「知ってるよ。私を探しに来たんだもんね？」

彼女の肩がピクっと揺れて私を見た。

そして決心するように軽く深呼吸して真っ直ぐ私を見た。

文恵「A、昨日お父様から教えていただいたんだけど……」

A「……。」

文恵「あの転校生ってAの、

婚約者でしょ？」

聞こえていた喧騒が急に止まった。

もしかしたら、私の耳に届いていないだけかもしれないけど。

「…やっぱり、知ってたんだ。」

皆、好奇心で私たちを見てたのに
その中で、文恵だけは衝撃を受けたような顔をしていたから。

文恵「転校生として来るとは知らなかったけど、その人の苗字が『安井』って…」

「………。」

文恵「…皆にいつまで黙っているつもり？」

あぁ、やっぱり。

文恵は全部知ってるんだ。

「…言わないよ。」

文恵「どうして！？
だってA、卒業したら…！」

文恵の声は震えていた。
泣くのを我慢している彼女に私は笑顔を向けた。

「…だから、かな。」

「今のまま、変わらないでいたいから。」

＿＿＿最後まで

何が、とは言わなかった。

どうして、とも言わなかった。

それでも文恵は分かってくれた。

文恵「………そっか。」

脳裏に浮かんだのは自分と正反対の人の顔。

ほんと、こうなるなんて思ってもいなかった。

何かを…

誰かを

失いたくないって思うなんて。

『大事なものなんて必要ない』

『失ったらどうなるか知ってるでしょ？』

『だって、』

……ほんとにね。

ほんとに私は大馬鹿だよ。

最後は無くなると分かっていて

それでも縋っているのだから。