おもい shp ページ4
甘い匂いが鼻を掠めた。
まぁ、よく出回ってるやつだし勘違いやろ。
そう思いつつもその人のことを目で追わずにはいられなかった。あの子と離れざるを得なかったあの日。あの子だったらいいな、なんて思いながら。
同じように振り返ったその人は笑顔が似合うあの子によく似ていた。
本当によく似ていて美人さんになった目の前の子から目を離すことが出来なかった。
ほんまにあの子なんかな。髪、伸ばしたんや。色も明るくなってるし。いや、でも…あの子だったとして俺は隣に立つ権利なんて無いな。
「あの?」
心配そうにこちらを見つめる彼女を前に俺はなんと言ったらいいのか分からなかった。
「ああ、すみません。なんでしたか?」
大人びた顔にはあの頃の面影が残っている。
「いえ、あの。昔、憧れていた人によく似ていたもので」
あぁ、目の前のあの子は俺のことを覚えてるんだ。…そしてきっと縛り付けてしまっている。
「…それは、偶然ですね。俺も貴女のことを知っているような気がして」
ああ、駄目だ。今更彼女の前に出てきて認知してもらおうなんて図々しい。今すぐ去ろう。彼女をこれ以上傷つけないために。
「やっぱり貴方は」
何かを紡ぐあの子の口を塞ぐ。駄目だ、それ以上言ってしまったら。何もかも壊れてしまう。
「ごめんなさい。やっぱり…俺たちは会わなかったことにしましょう」
もう、終わろう。
「…それは、どうして?」
ごめんな。もうこれ以上一緒にいたら溢れ出してしまうから。
「ごめんなさい。…やっぱり俺の人違いでした。貴女は俺と知り合いなんかじゃない」
君は俺のことなんか忘れて好きなことをしてください。もう顔も姿も見せないから。だからもう、何も言わないで。
「…そう、ですね。私も貴方が知り合いだと勘違いしていたのかも」
気を遣ってくれたのか俺の言葉を肯定するあの子。
「ええ、すみません。…さようなら」
「はい、…さようなら」
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作者名:ルオ | 作成日時:2023年12月18日 20時