溶け始めた心【ヒロアカ】 (ページ14)

今日:4 hit、昨日:1 hit、合計:83,921 hit

六十一話ページ14

常闇との準決勝で勝利を治めた爆豪を見ながら、思う

爆豪は、一位になって親父を説得すると言っていた

だからこそ、私も全力で掛からないと、負ける

だけど……

『君の、力じゃないか！』

私の、力

緑谷と戦ったあの時だけ、親父の事を、忘れられた。母の顔も、私の過去も、全て

「それって、良いことなのか…？」

考えれば考えるほど、わからなくなる

痛む胸をぎゅっと握り締めて、その場に蹲る

私に大丈夫かと近づく人たちの声を何処か遠くに捉えて、控え室へと足を引きずる

ーーーーーー

「焦凍、怪我ない！？」

控え室に入れば、押し込めてた荷物の中でスマホが音を立てて震えた
クラスメイトとも連絡先を交換してないので、もっぱら履歴は姉で埋まってる
応答ボタンを押せば、開口一番に心配する声

「お姉ちゃん、声でかい…」

「あ、ごめん！周りにお友だちいた？」

「友達なんていない。……怪我も、ない」

「そう、よかった…」

絞り出す様な声で告げられ、次の瞬間にはまた、中継で見てたんだけど、冷や冷やが止まらないよ…！と

「それにしてもまさか、決勝まで行くなんて！流石焦凍だよ！それに…」

左も、と
言いにくそうに言葉を紡ぐ姉に、再びあの不安が押し寄せる

「お姉ちゃん…私、左の力を使うのが怖いんだ。親父と、お母さんの事…全部頭から飛んでく。このままじゃ、お母さんの事を忘れそうで…」

辿々しい私の言葉を静かに聞いてくれた姉は、優しい声で、言う

「…最近の焦凍ね、とっても楽しそう。あの時…お母さんが入院した時から、世界の全てを恨んでるみたいな顔で、笑わなかった焦凍が、朝御飯のお蕎麦で、笑ったの

私、嬉しかった」

突然変わった話題に、不思議に思う

「お友だち、本当は出来たんでしょ？焦凍はもう一人じゃない。友達も、先生も、あのオールマイトだって焦凍の味方

…どう？そう考えると、お父さんなんて怖くないでしょ？」

友達、先生。次々と浮かぶ顔
パズルのピースが嵌まったみたいに、しっくりとくるその言葉に、涙が出そうになる

「過去に囚われ続けても、良いことなんてない。ヒーローになるんでしょ？だったらちゃんと前向かないと

なりたいものに、なっていいんだよ。焦凍には、その資格があるんだからっ」

母と重なるその言葉
物心付く時から母代わりだった姉は、ある意味私の第二の母だ

「お姉ちゃん…ありがと」

「あらあら、泣かないの！」