セイレーンのゆりかご【d!】 (ページ5)

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『いやぁー、もうすぐ夏休みだねぇ〜』

病院で母親が階段から落ちる(あんなこと)があったというのに
世界は今日も平和だし、虎無さんは普段と変わらない。
俺も今日も一人だ。
終わったら他クラスのシッマとシャオロンにでも会いに行くか

『うーん、ごめんね！私お母さんとお菓子作るんだ！』

「あー、なら仕方ないなぁ、私がお土産買ってきてしんぜよう!」

『良いのに〜！気を遣わないで!鳩サブレでいいよ？』

「しっかり指定してるしそっち方面行かないし」
「逆に気使うわ」

ケラケラと集団にいる女たちの声がする。
きのう、衝撃的な場面を見たからか、虎無さんの声がやけに他の人より大きく聞こえる。

気のせいなのだろうけど。

ふと、視線の先の女子たちがヒソヒソと話し始めた。
ぼーっと空を眺めると、虎無さんがずんずんと近づき

『ゾムくんどうしたの?なにか用事がある？』

「あ、え？」

にんまりと笑って目に立つ虎無さん。
周囲の視線が俺たちに集まる

「な、なんかもないで、てかどしたん?」

『どうしたはこっちのセリフ〜！じっと見られてたからさ、もしかして何かあったかなぁーって』

眩しくて目を逸らす。心配したような視線と、警戒するような視線が俺たちをじっと見ていた

「あ、や、なんもないわ」

『そうなんだ、何かあったら話しかけてね』

なっ，と笑いスカートを翻して元の女子たちとは違うグループに行った。
わっ、と女子が集まる

「大丈夫？何もされてない?!」
「平気?脅されたりとかしてない？」

わっ、と虎無さんの周りに集まり大丈夫かとやんややんやと取り囲む。
不良は何するかわからないから、と心配してるような声が多く
慣れているから悲しくはないが無性に腹が立った。

『もー！みんなゾムくん怖がりすぎだよ！話せばいい人だよ！』

そう言うとみんながでもだってと群がった。

ニコニコと笑った虎無さんは昨日の面影なんてなくて昨日のことが夢なんじゃないかと錯覚してしまう。

しばらくそうやってぼーっと集団を見ていると女子たちが虎無さんを隠すように囲んだ。
キーホルダーを渡せばよかったと酷く後悔した。

いつもと変わらない日常。いつもと変わらない教室
夏休みに入る前。じわじわと迫る夏の暑さと、張り付くような蝉の煩わしさ

昨日のは見間違い、勘違い。
だって虎無さんがあんなことする理由なんてないから

そうだ。虎無さんは優しい。

だから

だから….