セイレーンのゆりかご【d!】 (ページ13)

今日:9 hit、昨日:4 hit、合計:1,446 hit

　ページ13

「昨日。
お母さんの様子はどうだった?」

コネがあるって素晴らしいと思う。
それと同時にクソ喰らえと思う私もいる。
ゾムくんが程よい脳震盪を起こした為，私もその“おこぼれ”に授かっていたのだが、流石はお父さんの病院。

医者の娘だって人なのだから
病気や怪我
ましてや家で治すことなんかできやしない。

とりあえずに、と笑い、何か返答を返さなきゃ
と

『…元気だったよ、ニコニコ笑顔で迎えてくれた』
と
返答した。

納得の行かなそうな感じではあったがふーん、と再び机に向かう李仁兄さんを横目に料理を作ろうと菜箸を取る。

『あれ？牛乳ってあったっけ?』

「姉さん3本あるから4本目買ってこないでよ?」

流石にわかってるよーと笑いながら寝ながら『危ないあぶない』といつもより大きな声で言ってみる。

相変わらず，反応は無いままだ。
慣れたもんだけど、いまだに寂しく感じる。

まぁ，子供って成長するし、ね
仕方ないかぁ，と大きくなった兄を撫でる。

ぴく、と体をこわばらせつつもいつものように手を握り

「ちょ、やめろよ」

と頭の上から外す。
ルーティーンから外れた行動は苦手。
それでも、こうかな?と行動はしてみる。

その後気まずい沈黙が流れて、私はどうしたらいいのかわからなくなって
手の薄皮をむく。

いち早く気がついた兄はハンドクリームを取り出すと私を座らせ手に塗り込む

「今日もありがとう」

それだけで，心はホッとする。
ただしかし，なんだか悲しくなる頭に私は耐えきれなくなり

『あ、兄さん。あのね』

と、私はカバンから書類を出した。

「えぇ、ここに行くの?大変だぞー?」

兄は驚かせるように私に言い聞かせる

「ここの大学は出るって噂だからなぁ〜！
た〜べ〜ちゃ〜う〜ぞ〜！」

『ちょっと揶揄わないでよ』

記憶がない分取り戻さないといけないんだからさ

私はそう言うと自分の母の引き出しからハンコを持ってきてポンと押した。

何気ない風景のはずなのだが、兄は私をじっと見ていた

『なぁに？李仁』

「んやぁ〜？なんにもなぁい。はよ思い出すか勉強頑張ってくれ」

『ちぇー！いいじゃん！勉強教えてよー！』

「むーりー！暇じゃないんですぅ！」

私は

私は何かがおかしいと思う。
ひっかかるのだ。
こんな素晴らしい家族なのに

まるで，白黒ついてない灰色の私を
白にしようとしているみたい。

家族写真は倒れたままだ。