３ ページ21
・
・
・
・
「言っとくけど、今日は譲らないからな」
「……わかってるし」
『ゆき、』
「いいからもう行きな？映画見るんでしょ？」
『………うん。
また明日ね。夜連絡する』
「ん。…絶対ね？」
そう、小さく念を押したゆきちゃんを見て、それは優しく微笑んだAちゃんは、まるで春の日の妖精のよう……らしい。目黒いわく。
ゆきちゃんは、なかよく肩を並べて食堂をでていったふたりの姿が見えなくなる最後の最後まで、感情の読めない瞳でじっと見つめていた。
「…俺達も帰る？」
「そうだね」
俺はと言うと。
一緒に帰ろうと誘っても、違和感を持たれないくらいの距離までは来られた。
でもそれは、Aちゃんがいない時だけで。
ゆきちゃんにとってはいてもいなくてもいいような存在なんだろう。
それでも、俺のどうでもいい話に、本当にたまーにだけど、くすっと笑ってくれる彼女の横顔が見られるなら。
今はそれでよかった。
どうしても込み上げてきてしまう気持ちはこくりと飲み込んで。
初夏の淡い緑の中に溶け込む彼女の姿を、光景ごと切り取って、記憶の中に大切に大切にしまいこむ。
切って貼って、切って貼って。
自分で絵を描くことが出来ない俺は、ただ受動的にそれを繰り返す。
・
その日は、朝から少しだけ体の調子が悪かった。
「やば、うちのグループ全然進んでなくない？」
「終わってんな」
なるべく早く帰りたかったのに、滞っているグループ課題を少しでも進めようという名目で、講義後に集まれるメンバーで残ってほとんど生産性のない時間を過ごしていた。
「……どうする？まず資料集めした方がいいよね？俺今から資料室に…」
「てか、この課題絶対内容他と被ることない？偵察した方がいいよー。
ね？阿部ちゃん？」
「んー、かなぁ」
「あ、ねぇ、リナたちいま空き教室で集まってるって。阿部くん一緒に行ってみない？」
…なんで？
隣の女の子に腕を強く引かれて、咄嗟に振り払いそうになったのをぐっとこらえる。
狭い空き教室の中集まった5.6人のうち、数人は各々今できることをやっているのに。
少し離れたところに座っているゆきちゃんもそう。せっかく同じグループになれたのに、一年の頃から仲のいい友達も一緒だったせいで、なかなか彼女と話すことが出来ない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 169人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
苺(プロフ) - 張り切ってまた後日談のようなもの書かせていただきたいです☺️🙏🏻本当にやさしくてあたたかいお言葉をありがとうございました😭💓 (2023年5月1日 16時) (
レス) id: cdda59657f (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - たぬさん» 素敵な書き手様に読んでいただけたことに、恐れ多くて震えております…( ; _ ; )とても嬉しいです…！ありがとうございます💗その上めちゃくちゃ嬉しいお言葉ばかりかけていただけて、本当に幸せです( ; _ ; )▶︎ (2023年5月1日 16時) (レス) id: cdda59657f (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - かぼちゃさん» 心温まるとのお言葉が、とても優しくてかぼちゃさまのような素敵な方に読んでいただけたことを光栄に思います🥲💓これからもたのしくお話書いていけたらと思うので、また次のお話でもお会い出来るよう、がんばりますねっ☺️💝 (2023年5月1日 16時) (レス) id: cdda59657f (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - マコトさん» はじめまして🤍四者四様！を意識して書いたので、そこをすごく丁寧に読み解いていただけたことを本当に嬉しく思います…！😭ありがとうございます💓こちらこそ、とても優しいお言葉をかけてくださりありがとうございました🥲🩵 (2023年5月1日 16時) (レス) id: cdda59657f (このIDを非表示/違反報告)
たぬ(プロフ) - めちゃめちゃ面白くてキュンとして、読了後にふんわりと心が暖かくなるような作品でした！文章がすごく好みで、登場するキャラクターがみんな個性はありつつもそれぞれ可愛いポイントがあって、みんなを応援したくなるようなお話でした。是非また続きが見てみたいです！ (2023年4月30日 15時) (レス) @page25 id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：苺 | 作成日時：2023年4月29日 21時
