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まだまだ肌寒い日が続くけれど、この頃は少しだけ陽が伸びたように感じる。
冬の日はどこか世界の色が褪せて見えていたけれど、風があたたかくなるごとに彩度が増してきたようで。
春の、景色にもやのかかるような空気の曖昧さは、受ける感情や決意を鈍らせる。
心地よい場所にふわふわと漂っていたいと願うのに、やがて少しずつ強まる日差しが弱い心を照らし、浮き彫りにするから。
清廉な彼女は、俺の弱さや曖昧さを許さない。
初夏の澄んだ陽射しのようなひと。
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『見てこれ。買っちゃった』
「うげ」
『すごく嬉しくてね?永久保存版だと思って。家にあと三冊と、Web版も買ったんだ』
「なにしてんの」
連休前の人の少ない食堂にて。
にこにこと楽しそうなAちゃんが広げた雑誌のスナップページに載る自分の姿を見て、うげっと心底嫌そうな顔をするゆきちゃん。
『いちばんおっきく写ってるね!』
「ほんと、顔だけはいいよね」
頬杖をついた目黒が、さして興味無さそうに雑誌を覗き込む。「Aちゃんの方が可愛い」とかってぼそっと言っちゃうあたり、お前もかわいいよ。
そんなことを考えていると、ゆっくりと持ち上がった目黒の視線が自分に向けられていることに気づいて首を傾げる。
「ていうか、珍しくない?
この日、2人ででかけてたの?」
「うん、デート」
「ちがうから。勝手についてきたんでしょ?
あんたがAを私から奪っていったせいだからね?」
「あのさ?
そっちは週の半分以上は独占してる上、学科だって一緒なんだからたまにはいいでしょ」
「月に1回でじゅうぶんでしょ?」
「ゆきは留学とかいかないの?
ねぇ、いいんじゃない?どう、1回考えてみたら…」
「その時はAも連れてくから」
今日も仲良く言い合いをしているゆきちゃんと目黒。それを眺めてにこにこ微笑むAちゃんに、開かれた雑誌をそっと手に取る俺。
Aちゃんと目黒が付き合いだしてから、ずっと続く光景。穏やかな日常。
雑誌の中にいる俺は、ちょっと緊張したような表情を浮かべていて。
普段あまりあがったりしない性格なんだけど、でも、この時の写真。
これ、ゆきちゃんとのはじめてのツーショットだったからさ。
などと、今のところ勝算のない片思いをすること早2年ほど。
きっかけはちょっとややこしいのだけど。
鍵は、目黒とAちゃんの間の勘違い。
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苺(プロフ) - 張り切ってまた後日談のようなもの書かせていただきたいです☺️🙏🏻本当にやさしくてあたたかいお言葉をありがとうございました😭💓 (2023年5月1日 16時) (レス) id: cdda59657f (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - たぬさん» 素敵な書き手様に読んでいただけたことに、恐れ多くて震えております…( ; _ ; )とても嬉しいです…!ありがとうございます💗その上めちゃくちゃ嬉しいお言葉ばかりかけていただけて、本当に幸せです( ; _ ; )▶︎ (2023年5月1日 16時) (レス) id: cdda59657f (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - かぼちゃさん» 心温まるとのお言葉が、とても優しくてかぼちゃさまのような素敵な方に読んでいただけたことを光栄に思います🥲💓これからもたのしくお話書いていけたらと思うので、また次のお話でもお会い出来るよう、がんばりますねっ☺️💝 (2023年5月1日 16時) (レス) id: cdda59657f (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - マコトさん» はじめまして🤍四者四様!を意識して書いたので、そこをすごく丁寧に読み解いていただけたことを本当に嬉しく思います…!😭ありがとうございます💓こちらこそ、とても優しいお言葉をかけてくださりありがとうございました🥲🩵 (2023年5月1日 16時) (レス) id: cdda59657f (このIDを非表示/違反報告)
たぬ(プロフ) - めちゃめちゃ面白くてキュンとして、読了後にふんわりと心が暖かくなるような作品でした!文章がすごく好みで、登場するキャラクターがみんな個性はありつつもそれぞれ可愛いポイントがあって、みんなを応援したくなるようなお話でした。是非また続きが見てみたいです! (2023年4月30日 15時) (レス) @page25 id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:苺 | 作成日時:2023年4月29日 21時