92 ページ48
Aside
貴「町を1周した感想は？」
顕「すごく気に入ったよ。みんなが知り合いっていうのも、なんかあったかく感じた。だから、余計に俺は他所者のような気がしたけど…」
顕嵐は手の中のコーヒーカップを見つめながら、寂しそうに言った。
そんな顕嵐があまりに儚くて、思わずその手を握ってしまった。
貴「そんなことない。まだ退院したばかりでしょ？だからそう感じるのよ。1週間もすれば、みんな昔からの友達みたいに話しかけて来るわ。逆に、顕嵐のほうが覚えるの大変かも」
顕「そうだね…」
握っていた私の手を、顕嵐がギュッと握り返す。
もし、こんなところを楓さんに見られたら…
そうは思っても、この手を離したいとは思わなかった。
お「そういえば聞いたかい？…ん？どうかした？」
貴「いいえ、別に」
慌てて顕嵐の手を離した。
幸い、おばあちゃんは気づかなかったみたい。
私は誤魔化すかのようにコーヒーを飲んだ。
顕「…っ聞いたって何のことですか？」
お「玄樹のことだよ」
貴「岩橋君がどうかしたの？」
岩橋君のことは最近見てなかったけど、また何かあったのだろうか？
お「学校を辞めて、雅紀のとこで自動車修理の手伝いをするんだってよ。愛梨と子供のためによく決心したよ」
貴「そうだったの…」
顕「雅紀って？」
貴「さっき行った修理工場のオーナー。あの人のとこなら安心だわ」
お「ああ。愛梨も部屋を引き払って玄樹の家で暮らしてるし、赤ん坊も元気そうだったよ」
貴「それは良かった」
それからおばあちゃんも交えて他愛のない話をし、私たちは店を出た。
貴「わざわざ見送りなんていいのに」
お「お前のためじゃないよ。顕嵐君、また来ておくれ。Aなしでも。ね？」
顕「ええ…また来ます」
顕嵐の返事におばあちゃんは満足そうに頷き、店の中に戻っていった。
貴「すっかり気に入られたね」
顕「俺、モテるから(笑」
貴「はっ…調子に乗らないで。…行くよ」
店に背を向けた私の後ろを、顕嵐がニヤニヤしながらついて来る。
顕嵐が言ったのが、おばあちゃんのことじゃないってことは分かってる。
だけどね、そう分かってて嫉妬するほど、私も安い女じゃないんだからね。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 6人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：千織 | 作成日時：2017年2月20日 18時
