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Aside
愛「あの子たち、相変わらず過保護だね」
貴「…聞こえてました?」
ここ壁薄いから。
愛梨さんはそう言って
洗濯物をカゴの中に放り込んでいった。
お腹が邪魔して歩くのも大変そうだ。
貴「知りませんでした。愛梨さんがここで働いてるなんて」
愛「おばあちゃんがね、行くとこないならここにいなって。部屋も貸してくれてるの」
貴「そうだったんだ…」
その後、なんと声をかけたらいいか
分からなかった。
愛梨さんが今、どんな状況にいるのか
なんとなく想像ができる。
相手が誰かなんて考えるまでもない。
でも、きっと彼はこのことを知らない。
それは普段の彼を見れば明らかだった。
貴「言わないつもりなんですか?…岩橋君に」
愛梨さんは何も答えない。
黙ってシーツを物干し竿にかけていく。
貴「岩橋君だって言ってほしい…
愛「言ってもどうにもならないから!」
貴「……愛梨さん」
シーツを握る愛梨さんの手に力がこもる。
必死に涙を堪えているように見えた。
愛「玄樹のことはAちゃんも知ってるでしょ?玄樹は…お父さんには逆らえないから。お父さんが許してくれるはずもないし…」
たぶん愛梨さんは、
妊娠のことが周りに知れて
岩橋君がどう思われるかを気にしている。
だから、こんな風に隠れ棲んでなんかいるんだ。
でも、本当にそれが正解なのだろうか?
貴「愛梨さん、本当にそれでいいんですか?2人が付き合ってたことは、この町の人はみんな知ってます。今は隠せても産んだ後も隠し通せるはずがないし。本当に言わないことが岩橋君のためになるんでしょうか?」
愛「Aちゃん…」
貴「大事なのって周りにどう思われるかじゃないんじゃないですか?2人がどう思うか、そっちのほうがよっぽど大事だと思いますよ。でも、岩橋君は思うこともできないでいる。それが彼のためなんて、そんなこと本当は思ってないですよね?……って、こんなこと何も知らない人に言われたくないですよね」
洗濯機から服を取り出し、
私は逃げるようにスタッフルームを出た。
愛梨さんにあんなこと
言いたかったわけじゃない。
ただ私が
そう思い込んでいたかった。
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作者名:千織 | 作成日時:2017年2月20日 18時