モ ノ ゴ ト リ

コーンポタージュ × 永田崇人 ページ50

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きっかけは些細なことだったと思う。
僕がAを怒らせてしまったのだ。
『頭を冷やしてくる』と言って出ていったAを、
果たして追いかけていいのか分からず、家にいる。





「(もうこんな時間…)」






時刻は23時をまわった。
Aが外にいたら風邪を引いてしまうかもしれない。
そう思うといてもたってもいられなくなった。
貴重品だけポケットに入れて、玄関を飛び出す。
また怒られてしまうから、鍵はちゃんと掛けておく。
あれだけ躊躇っていた外にあっさり出てしまった。
それほど、Aを心配してるということなんだけれど。







「……A？」

『あ、崇人』







Aはマンションのすぐ前にある自販機の前にいた。
すでにお金をいれたようで、自販機の安っぽい電灯が
チラチラと光っている。彼女は存外近場にいた。






「ここにいたの？」

『だって遠くに行ったら探しにくいでしょ？』






当然、という顔でAが言うので思わず笑った。
彼女には何もかもお見通しだったようだ。
彼女のネイルが施された指がコンポタのボタンを押す。
よく見るともう片手にもコンポタの缶があった。






『はい、これは崇人の分ね。』

「え？ありがとう…」

『一緒にあったまって帰ろ。』





Aがにこりと笑う。
本当に、僕は一生彼女にかなわない。





「ねえA、ごめんね。」

『いいよ、私も何で怒ってたか忘れちゃったもん。』

「それは覚えててよ笑」




23時をまわった真夜中に、男女の笑い声が響く。
『近所迷惑だから』ってAが僕の口を塞いだ。
冷たい手。ずっとまっててくれたんだろうか。
そう思うと愛しさと申し訳なさが込み上げてきた。





『ごめんねって、思ったでしょ』

「え？」

『外で待たせてしまったことについて、違う？』

「なんで分かったの！」

『顔に書いてたから』





そう言って、僕たちが出会った高校時代から変わらない
笑いジワをつくる笑顔を見せた。
僕の不甲斐なさも、あのころと同じみたいだ。





「だって、こんなに冷たかったから。」

『そうだよ〜、出てくるの遅いなって思ってたもん』









きっとこれから色々あると思うけど、
僕は今日のコーンポタージュの缶の温もりを忘れない。









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お話がいっぱいになりました。
2作目は作るか迷い中です…。








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